孫子の兵法が教えてくれるのは勝利の手段や秘訣ではなく、勝利を収めるための精神だ。
筆者は1997年に米国の国防大学に留学していた時に、『孫子の兵法の研究』という本を贈られた。国防大学の関係者は、「米国の多くの軍事学校、例えば海兵隊大学校、陸軍士官学校、海軍兵学校などは孫子のカリキュラムを組んでおり、中国に行ったことのない米兵でも孫子の兵法を論じられる」と語った。
米国は当時、デジタル化部隊の構築に取り組んでいた。時の米陸軍参謀長は、「デジタル化システムは非常に複雑だが、核心的な戦闘力を形成する場合、自分がどこにいるか、友好国がどこにあるか、敵国がどこにあるかという三つの質問に回答できればよい。この三つの問題の答えは、敵を知り己を知れば百戦危うからずという孫子の教えに秘められている」と語った。米国人は孫子の兵法から、現代の戦争に最も則した内容を読み取っている。国防大学の必読書の1冊目は合衆国憲法、2冊目は孫子の兵法、3冊目はクラウゼヴィッツの『戦争論』だ。
米国と完全に異なるのは日本で、伝統衣装、茶道、囲碁など中国のものなら何でも学ぶのに、兵法だけは学ぼうとしない。彼らは中国の兵法は奇策を中心とすると考えている。孫子の兵法の「奇法」、「虚実」、「奸策」などの思想は敵に対する恐れから来るもので、「恐れ」が中心的な内容だというのだ。これは偏った認識だ。孫子の兵法が強調するのは「勝つ」ことだ。孫子の兵法の13篇は漢字6000字余りだが、「勝」という字は82回使用されている。孫子は勝利を求める強い思想を持っている。「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む」とは、ソフト面の実力がハード面の支えを必要とするということだ。ハードパワーがなければ、ソフトパワーの基盤はもろくなる。孫子の兵法が教えてくれるのは勝利の手段や秘訣ではなく、勝利を収めるための精神だ。孫子の兵法は勝とうとする心理、勝利をもぎ取る強い意志を教えてくれる。(国防大学戦略研究所所長、金一南氏)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2014年7月23日