日本僑報社・日中翻訳学院は、翻訳家の武吉次朗先生が主宰する中文和訳講座「武吉塾」の第14期公開セミナーを8月8日午後、東京・豊島区の勤労福祉会館で開催した。中国語翻訳のプロを目指す受講生ら約50人が、武吉先生の指導に熱心に耳を傾けた。
翻訳家の武吉次朗先生(段躍中撮影)
また、このほど日本僑報社から翻訳本を刊行した平間初美さん、小室あかねさんからそれぞれ貴重な体験談が披露されたほか、平間さん、小室さんらに授与された第3回「翻訳新人賞」の授賞式が行われた。
セミナーではまず、武吉先生が「武吉塾」第14期(約4カ月・全15回)の添削を終えての総評として「『翻訳調』から抜け出るコツ」と題して講演した。
「中国語の特徴は、明快、主体的、能動的、論理的であるのに対し、日本語の特徴は、あいまい、客観的、自然発生的、情緒的」であり、「どうすれば『コッテリ中華』の原文を『お茶漬けさらさら』の日本語に訳せるか」として、そのコツをアドバイス。
中文和訳の初心者に共通の問題点として、「原文の単語をすべて訳すので、訳文がくどくなる」「原文の漢字をそのまま使うので、訳文が硬くなる」「原文の語順をそのまま使うので、訳文がモタモタする」といった特徴を挙げ、具体的には「原文に多用されている人称代名詞は、訳文では誤解されない限りバサバサ削る」「原文に多用されている“一個、一所”などの数量詞は、英語の不定冠詞のようなものだから、特に強調する場合以外は省略する」などの翻訳の極意を伝授した。
会場では、翻訳のレベルアップを目指す受講生らが、真剣にメモを取るようすが見られた。
続いて、このほど日本僑報社より刊行された『中国発展報告―最新版』の訳者、平間初美さんと、豊子愷児童文学全集第1巻『一角札の冒険』の訳者、小室あかねさんがそれぞれ貴重な翻訳体験談を披露した。
平間さんは、翻訳の際に困ったことは数多くあり、中でも「印象深かったことは外国人の名前」であったと紹介。
「(中国語は)日本語とはまた違う感覚で音を漢字表記するので、アルファベット表記が添えられていないと、誰なのかを正確に把握するのに時間がかかった」と日本語訳の苦労を述べた上で、翻訳する過程では、知識を増やすことはもちろん「リサーチの手段を増やすことが必要」であり、インターネットを活用することをはじめ「公共図書館サービスにもずいぶん助けられた」と、翻訳作業に広く役立つ体験談を明らかにした。
これまで、仕事ではビジネス翻訳が中心だったという小室さんは、初めての児童文学作品の日本語訳にあたり、「大人だけではなく子供が読んでも理解できる翻訳」を目指して、自宅にあった外国人が原作の子供向けの本を「片っ端から読み直した」。さらに西槇偉(にしまき・いさむ)氏の著書『中国文人画家の近代―豊子愷の西洋美術受容と日本』を読んで、作者である豊子愷について一層の理解を深めたという。