文=共同通信論説副委員長、森保裕
2025年8月、戦後80年の日中関係について、楽観的な「白い未来」と悲観的な「黒い未来」の両方を想像してみた。日本は20年に戦後2回目の東京夏季五輪を開催する。中国は21年に共産党創建100年を迎え、22年は初めての冬季五輪を北京で開く。
【白い未来】日中両国は日中戦争について完全に和解を果たし、未来志向の関係づくりを着実に進めていた。日中韓の自由貿易体制も軌道に乗り、3国と東南アジア諸国連合(ASEAN)にインド、オーストラリアなどを加えた「アジア共同体」構想が現実味を増している。日本主導のアジア開発銀行(ADB)と中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は協調してアジアの新興国、発展途上国に融資を行い、地域の経済発展に貢献。中国の習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」(陸と海のシルクロード経済圏構想)も日米欧の全面的な協力で軌道に乗り始めた。尖閣諸島(中国名・釣魚島)や南シナ海の領有権争いはすべて棚上げされ、石油や天然ガスなどの共同開発が始まった。軍事的な緊張が緩和されたため、日中両国は防衛費を大幅に削減、共に高齢化社会が進む中で老人の福祉や環境保護などの予算を増やすことができるようになった。アジアの安定に伴い、米国も沖縄などアジアの駐留米軍の削減を検討し始めている。
【黒い未来】日中間では歴史認識をめぐる感情的な対立が続き、全く未来志向に進めない。中国では「日本人への憎しみ」の再生産が続き、日本では「いつまで謝ればよいのか」という不満が渦巻く。尖閣諸島をめぐる日中対立も続き、日本企業の対中投資は激減、低成長期に入った中国経済の足を引っ張る。「アジア共同体」はおろか、日中韓の自由貿易体制づくりさえ行き詰まり、ADBとAIIBはアジアを舞台に勢力争いを続ける。南シナ海の領有権争いも激化して、米国にフィリピン、ベトナムを加えた連合軍と中国軍の間で軍事的な緊張が高まり、「一帯一路」構想はもはや画餅に等しくなった。日中両国は「安全保障のジレンマ」によって軍拡競争に陥り、両国ともに国防費が大幅に増えて国家予算を圧迫。日米の軍事同盟は強化され、中国軍と自衛隊・米軍の間の偶発的な武力衝突が強く懸念されている。日中双方で狭隘なナショナリズムがそれまで以上に強まり、国粋主義者の間では「開戦論」が出てきた。
この二種類の未来のどちらを選ぶかと聞かれれば、日中両国の大多数の人々は「白」と答えるだろう。だが、現実的には「白」でも「黒」でもなく、中間の「灰色」の未来になる公算が大きいと思う。例え「灰色」になるとしても、できるだけ「白」に近い「灰色」を目指すにはどうすればよいか考えてみたい。