日中経済協会調査部長 高見澤学
中国浙江省杭州市において、9月3日にB20ビジネスサミット(以下「B20」)が、翌4日からはG20杭州サミットがそれぞれ開催された。今回議長を務める中国の習近平国家主席は、3日のB20での開幕式と4日のG20での開幕式にそれぞれ出席し、基調演説を行った。この基調演説で習主席は、中国は新たな歴史のターニングポイントを迎えている中で、経済発展の新常態(ニューノーマル)に適合する発展方式へと転換していることに言及した。
中国の2016年上半期の経済成長率は6.7%と、前年同期と比べ0.3ポイント低下しているが、13・五計画で設定された目標の6.5%以上という目標はクリアし、一定の経済成長は達成している。その一方で、国内消費による経済成長への寄与度は73.4ポイント、第三次産業のGDPに占める割合は54%に達するなど、経済構造の改革も徐々に進みつつある。このように、安定したマクロ経済運営を維持しながら、着実に構造改革を進めるという中国の狙いは、数字をみる限り問題なく進展しているように思われる。しかし、実際には過剰生産設備やゾンビ企業の存在、環境汚染、地域格差、都市病など、早急に解決しなければならない課題は山積していることも事実である。
今回、中国が初めてG20の議長国を務めることになったが、その背景として、国内経済が抱える難しい問題に少しずつとはいえ着実に対処していることに加え、世界経済における中国の影響力が徐々に高まりつつある現実がある。もちろんG20という国際会議の場ということもあり、習主席の今回の発言には、世界との協調という要素が至る所で盛り込まれている。
マクロ経済政策では、グローバル経済の成長と金融安定の維持を促進するために、海外との政策の協調を求めており、情報通信技術の発達や科学技術のイノベーションに伴う「第4次産業革命」においては、新たな世界や領域の開拓に期待が寄せられている。国際通貨・金融体制の整備・再構築や貿易・投資の自由化などは、必然的に海外との協調・連携が欠かせないことはいうまでもない。
中国経済が一定の成果をみせる一方で、世界経済は依然として成長の力強さに欠ける状況が続いている。これまで、世界経済を根本から動かしてきた欧米流の経済理論が行き詰っているのではないかとの認識から、中国は新たな視点から、国際経済の枠組みの組み直しを狙っているように思えるのは私だけであろうか。国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の設立や「一帯一路」構想の提案などは、第4次産業革命によって世界的に人々の生活や生産が根本から変わろうとしている時代に、新たな国際経済メカニズムの構築を狙っているといえるのではないだろうか。
B20の開幕式で、習主席は「現在の世界経済の複雑な情勢とリスクに直面する中で、国際社会はG20、杭州サミットに対して大きな期待を寄せている」とし、「中国は各方面と一緒になって、杭州サミットが根本的治療と対処療法を合わせ持つ総合的な処方箋を示すよう期待している」と述べ、今次G20杭州サミットでの結論が、今後の世界経済にとって生死を占う極めて重要なものになることを示唆している。つまり、従来の財政・金融政策という「対処療法」とともに、体質改善に相当する構造改革という「根本的治療」の具体的な処方箋(方策)を今回のG20でどう示されるのかが期待されるのである。
(本稿は筆者個人の意見であり、中国網や所属機関を代表するものではありません。)