今年は、僕にとっては中国生活10周年の節目の年である。それにちなんで、ある雑誌のインタビューを受け、その中で記者から少々ドキッとするような質問を受けた。
「矢野さんは、日本に対して〝いつかリベンジしてやろう〟という思いがありますか?」
〝リベンジ〟というのは、東京で役者として芽が出なかったことに対しての言葉だろう。
確かに10年前に初めて北京での生活をスタートさせた若かりし僕は、「このままでは終わらへん! 見とれよ!」と内なる闘志を燃やしていた。あの頃の並々ならぬ闘魂精神を懐かしく、また照れくさくも感じるが、それが原動力の一つとなって、ここまでやってこれたのも事実だ。
今、僕を突き動かしているものは、〝リベンジ〟や出世欲では決してない。リベンジなどというちっぽけなものとは似ても似つかない、僕を支えてくれたすべての人たちに対する〝恩返し〟である。田舎出身の青二才であった僕を東京で育ててくれた人たち、中国で世話を焼いてくれた人たち、応援してくれているファンの人たち、そして家族。映画やドラマ、バラエティなど、僕がさまざまな舞台で活躍することが、彼らへの恩返しになると信じたい。
常に感謝の気持ちを持って活動することは、41歳になった僕の課題でもある。若い時分なら、多少生意気でもはみ出し者でもいいだろう。ある程度の年齢を重ねた現在、僕が忘れたくないのは、初心に戻ることの大切さだ。先日亡くなられたアップル社のスティーブジョブズ氏も同じようなことを言っておられましたが、自分は真似てるわけじゃないですよ。結構数年前から中国語ブログなどで“初心忘れべからず”の重要性を唱えていました。誠実かつ謙虚な姿勢で仕事と向き合う。また、経験に応じて広い視野が培われ、いくつになっても新たな発見がある。若い頃のハングリーさや情熱とはまた違ったものを支えにして、人生における探究心やバイタリティを高めることができると思う。