この一連の悲劇は、多くの企業の管理モデル及び企業文化が職員、特に新世代の出稼ぎ労働者の新たなニーズを満たすことができず、彼らが直面する問題、特に心理面の問題や感情面の困惑に対応できていないことを物語っている。
「今回の事件は発生前に兆しがなかったわけでもない。ある自殺した女性労働者は、同郷の従業員が別の工場に異動したことで、2日間泣き続けたことがある。ところが、同室の仲間たちはこの状況を会社に伝えなかった」と、劉坤氏は従業員への関心が不足していることを認め、「通報体制が整っておらず、従業員が異常な状態になった時点で悲劇の発生を阻止できなかった」と話した。
深セン市労働組合の王同信副主席は、「現在の従業員には、80年代や90年代生まれが多く、学歴は前の代より高くなり、個性の発展を追求している。しかも、自分の権益を守るという意識も高い。企業がこれまでの厳格な管理を中心とするやり方をやめなければ、問題の発生は避けられない。企業は物質面で従業員の権益を保障しなければならないほか、精神面でのケアも欠かせない」と述べた。
富士康の管理者によると、現在、従業員管理や従業員との交流システムの改善、通報制度や心理ケアの制度構築を進めているという。また、インターネットの活用に力を入れ、娯楽やスポーツ施設を増設し、情報の交流を促進している。ところが、企業のこうした反省や改善のための努力だけでは、新世代の労働者の精神面の問題は解決が難しいと考えられている。
劉開明氏は、「富士康が直面する問題は、モデル転換を進める中国が直面する問題の縮図だ。数十万人の人口が都市に移動しているが、関連の社会管理システムが整備されておらず、戸籍制度、都市・農村の二元構造などが、出稼ぎ労働者を都市から疎外している。富士康の連続自殺は、中国経済と社会が転換中に直面した差し迫った問題を映し出している。出稼ぎ労働者への社会権益や生活権益面の『借金』は、返済の時期にさしかかっている」と語った。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年5月14日