中国が真の「小康社会」を実現するために最も重要な政策は、『中間所得層への全面支援』であり、これが筆者の第一の提言である。中間所得層を支援する政策により、この層の消費を拡大させることができれば、経済成長の大きな原動力が生まれ、内需主導型の経済構造が実現できるとともに、中国社会の所得格差を幾分か解消することができる。
中国の現在の中間所得層はかなり豊かになったが、その消費行為はまだかなり抑制的である。アメリカの中間所得層が借金をしてでも消費行動に走るのとは対照的である。中国の中間所得層がお金を使わない理由は、住宅ローン、教育費そして老後の社会保障への不安があるからである。特に老後の社会保障に対する不安は大きく、中国国民の高い貯蓄率はこれを反映している。
中国政府は、中間所得層の将来への不安を払拭するような思い切った社会政策が必要である。例えば、中国の不動産における土地部分は70年貸借であるが、この再延長を保証する等の長期的な政策を国民に公表すれば、国民に大きな安心感を与えるだろう。
また急速な少子高齢化を目の前にしている中国の国民は、将来は積み立てた年金が返還されないのではないかという不安を持っている。日本も将来の年金などの動向が国民に不安を与えている。しかし日本政府は、将来の年金はいくらになるのか、今後どういう改定が加えられようとしているのか等の情報を細かく試算して国民に公開している。中国も国民が将来計画を立てやすいように現時点での試算を公開したらよい。そうすれば中間所得層も自分で計画を立て、現在の収入の一定部分を消費行動にあてることが可能になる。そうすれば内需拡大の大きなきっかけをつくることができる。
さらに中間所得層は、食品や製品の品質に対するこだわりが高く、物の購買活動においては価格だけで決定しなくなった。今年の春節で日本に旅行した中国人は、日本の化粧品や電機釜、魔法瓶などを競って買って帰った。中国の中間所得層の消費拡大は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスが到来することを意味するだろう。