フランスの学者2名が今年初頭に、iPhone(アップルの携帯電話)の産業価値チェーンを研究した。調査によると、アメリカから一部を輸入して中国で組み立てたiPhoneは178.96ドルだったが、うち24ドルのメモリと35ドルのスクリーンが日本産で、23ドルのCPUとその関連部品が韓国製、GPS・マイクロプロセッサー・カメラ・WiFi無線など計30ドルの部品がドイツ製、ブルートゥース・録音部品・3G技術部品など計12ドルがアメリカ製であった。そのほか、材料費や各ソフトのライセンス、特許利用料が合わせて48ドルほどになっている。つまり消去法的に計算すると、中国での組立工程の費用はわずか6.5ドルということになる。
こう見れば分かるように、富士康(アップルの下請け業者)など国内で業績良好な部類に入る会社でも、時代の最先端をいくこの携帯電話の世界では、何万人もの労働者をかかえながら、3.6%の価値しか享受できていないのである。このような全世界的分業体制のなか、中国の「中等収入階層」がどう育っていくというのか。
2010年、アメリカの貿易赤字は4978億ドルという驚くべき数字になった。うち55%が中米貿易によるものだという。しかし、アップルの携帯電話というこの典型例を見れば明らかなように、178.96ドルのこの機械全体としてみて中国はアメリカに対して黒字であるように思えても、本当に中国国内に残るのはなけなしの6.5ドルなのである。
これについてはフランスの研究者が結論を出している。人民元の切り上げは付加価値の増大と産業の発展に足並みを合わせるべきであり、労働人件費が大幅に上昇しながら労働生産率が上がらないといった変化は中国は受け入れられない。言い換えれば、付加価値のより高い製品を作り出して航空や機械電気、電子などの最先端製造業の国際市場で先進諸国と競争するということができず、国内で組み立ての「出稼ぎ仕事」しかできないのならば、より多くの給与収入階級を「中等収入階級」に変えようという考えは空想に終わることになろう。
これは、蔡昉氏が述べるところの、「中所得国の罠」を避けたら「産業構造の調整」を実現せねばならないという忠告を裏付けている。効率の悪い企業や利点のない産業を「創造的に滅亡」させることで「全要素生産率」を引き上げるという提言である。