寺島実郎氏は日本総合研究所理事長、多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長を務めると同時に、日本の政治・経済界、学界で数々の要職を担当し、「新経済主義宣言」や「世界を知る力」など20以上の著書がある。新華社の記者が、アメリカ流金融資本主義の破滅、ポスト・アメリカの世紀などの話題をめぐって寺島氏にインタビューした。
◇ウォール街が「賭博場」効果を失う
記者:昨年、世界の政治・経済が混乱し、不安が広がった。「アメリカ流金融資本主義」の挫折とともに、世界の思想史に新たな1ページが開かれると以前断言されたが、この判断の主な根拠は何か?
寺島氏:冷戦終結後、米国は国防予算を大幅に削減し、米国の軍需産業は合併・統合し、理工系卒業生の関連産業での就職先が減った。その補足として金融業界が理工系学生の新しい就職方向となった。
以後、金融産業の主要機能は銀行を代表とする貸付業務、事業への資金提供、事業成功から利息などのリターン獲得になっていった。だが90年代以降、米国の金融産業に急速な「異変」が現れる。投資事業から利益を得るのではなく、リスク管理を通じた利益獲得をもくろむ。つまり様々な計算方法を利用して様々な新しい金融商品を生んだ。それがいわゆる「金融工学」だ。理工系卒業生が大量にこの業界に入ったことで、こうした新しい金融ビジネスが急速に発展、その典型的な代表がヘッジファンドで、その後リスクのより高い金融ツールが出てくる。こうした金融ビジネスは各種リスクを分散させて再び組み合わせるため、破綻すれば各分野に波及する。08年のリーマン・ショックはウォール街式の米国金融資本主義が行き詰ったことを明らかにした。
米国の軍事支出と消費支出はいずれも実体経済がもつ力を超えている。それができるのは、「金融」活動を利用し、ウォール街が世界の資金を米国に向かわせていたからだ。長年、米国の経常収支は巨額の赤字だが、資本収支は黒字だ。ウォール街が「賭博場」効果で呼び込んだ資金が米国の財政支出と消費を支えている。実際、米国人の生活は幻覚の中で実際の実力を上回る生活を享受しているが、このメカニズムを支えているのがウォール街だ。今米国が問題にぶつかっているのは以前のように資金が呼び込めなくなったからだ。つまり資本収支が経常収支を上回る構造が機能しなくなってきた。これが今米国が方向を見失っている本質的な原因でもある。