『日本経済新聞』が4月9日に伝えたところによると、半導体メモリ事業の売却に伴うリスクがある中で、東芝は新経営体制をスタートさせた。経営再建を前提とした半導体メモリ事業の売却は予定の3月末に完了せず、4月3日になっても見通しが立っていない。中国政府の独占禁止法審査をまだクリアしていないためである。2兆円規模の事業売却が進まなければ、東芝の財務戦略などに影響が及ぶ可能性もある。
2017年9月、東芝は米ベインキャピタルとメモリ事業子会社の東芝メモリ売却に関する契約に調印した。売却するには各国の独占禁止法審査をクリアする必要がある。
成功するかどうかは中国政府次第
日米などの審査は順調に完了したが、最大の難関とされる中国政府の審査は2017年12月にようやく始まった。通常、審査期間は4カ月で、3月末の売却目標は当初から懸念されていた。実際、3月末にはまだ審査を通っていなかった。
中国政府は世界と中国市場でそれぞれ一定量以上を販売する商品の企業を対象に、合併・経営権移転の際に独占禁止法審査を実施する。中国は半導体を政策性産業と位置付け、東芝メモリの売却に関して多くの観点があり、審査は長期化している。
売却が進まなければ、東芝と東芝メモリは投資計画を見直さなければいけない。
東芝メモリは四日市工場(三重県四日市市)での新工場建設に力を入れている。また、岩手県北上市にも新工場を建設し、年内着工を目指している。東芝の某役員は、巨額投資のリスクに耐える能力はないと明かした。これも東芝メモリを売却する理由の1つである。
ベインキャピタルなどはメモリ事業買収後の投資計画を制定しており、取引が遅れるほど東芝の負担が増える可能性は高くなる。ライバル社のサムスン電子が巨額投資を行う中、投資行動の遅れは東芝メモリの企業価値にも影響が及ぶ。
東芝とベインキャピタルの契約によると、4月以降、東芝は一定条件のもとで契約解除の権利を得る。またベインキャピタルも7月に解約権を得る。取引が進まなければ、反対派の株主の動向にも注目する必要がある。
4月1日に東芝の会長兼CEOに就任した車谷暢昭氏は3日に取材に応じ、「早急に売却できるよう努める」と述べながらも、「(メモリのような)事業が適度に存在するのも悪くない」と話した。
東芝の株主資本は3月末時点で4600億円に達し、株主資本比率は11%になるとみられる。しかし、2017年12月末時点の銀行貸付などの有利子負債は1兆1000億円に達する。
主要取引銀行は融資と信用貸付を回収するため、東芝にメモリ事業を売却するよう促している。東芝は2兆円の売却額を成長が見込める投資と融資返済に充てる計画。取引が長期化すれば、財務戦略にも影響しかねない。