中国と米国の間では貿易摩擦が年初からエスカレートを続けている。米国のトランプ政権は、経済のグローバル化という大きな流れをさえぎり、貿易協力の現状を変更し、貿易赤字を転換しようとはかっている。米国の政界が今年、中間選挙を迎えるとあって、トランプ大統領は政治目的から、中国への貿易紛争の挑発を一段と強めた。その後に発生したいくつかのできごとは、中米間の貿易矛盾をさらに激化し、中米両国の貿易の行方の不確定性を増した。(文:李稲葵・清華大学中国経済思想・実践研究院院長)
中米貿易関係の未来の行方についてはさまざまな見方がある。両国が全面的な衝突へと向かい、さらには関係を断つところまで行くという論者もいる。また貿易戦争の結果は中国の経済成長に耐えがたい影響を与えるという声もある。今にも何かが起こりそうな深刻な情勢に対しては、われわれは、「底線」(最低ライン)の考え方で両国の根本利益のありかを冷静に分析し、最悪の状況を理性的に推論する必要がある。そのようにしてこそ、われわれは、戦術の背後にある戦略的な考慮を見通し、正確で有效、理性的な対応策を決めることができる。
中米の利益は深く融合
われわれは、理性的に考えれば、現在の中米両国は全面的な対抗へと進むことはないと考える。中米貿易がゼロに戻ることもないし、断絶することもなく、新たな冷戦や軍事戦争へと向かうことはさらにない。実際には、目下の中米経済・貿易関係はゼロサムゲームにはほど遠く、むしろ深く融合し、相互に依存したものだ。グローバルな経済体制の下、中米両国経済は、次の3つの重要なルートを通じて複雑に入り組んだ関係を形成している。
第一に、国際貿易。両国はいずれも、相手国から大量の商品とサービスを輸入(輸出)している。2017年、中国の対米商品輸出は4298億ドルにのぼり、中国の通年の商品輸出総額の19%を占める。米国の対中商品輸出は1539億ドルで、米国の通年の商品輸出総額の10%を占める。これと同時に、中米両国のサービス貿易の規模も急速に拡大している。
第二に、国際投資。中米両国はいずれも、相手国への大量の直接投資と間接投資をしている。例えば2015年、中国にある米系企業は5170億ドルの売上高を実現し、利潤は360億ドルを超えた。中国企業の米国への直接投資の規模は比較的に小さいものの、金融危機後に顕著に増加し、累計投資額は2016年末に1090億ドルに達し、投資先は全米50州の46州に広がっている。このほか両国の住民や企業も相手国の証券取引所で大量の株式または債券の資産を保有しており、中国政府の外貨準備の最も主要な投資品目も米国政府の債券だ。米財務省の公表した最新の主要国債データによると、2018年4月時点で、中国の米国債保有総額は1兆1800億ドルに達し、保有額は世界トップにある。
第三に、人員の往来と人的資本のつながり。中米両国からはいずれも大量の住民が相手国に赴き、訪問・学習・勤務・生活をしている。2016年、中国から米国に留学に赴いた人員の総数は35万3千人に達し、米国の国際学生総数の34%を占めた。米国から中国への留学や観光の人数も増加を続けている。清華大学の蘇世民書院を例に取ると、書院の学生のうち米国人の割合は45%に達し、各国のうち最多となっている。
以上の3つの主要なルートのほかにも、中米両国の経済の高度の融合と深いレベルのつながりを示す証拠はたくさんある。中国は米国の農産品と航空機の最大の輸出市場だ。また中国人消費者は2016年の一年間で、4490万台のアップルの携帯電話と、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラーの米3大自動車メーカーが中国で生産した合弁ブランドの自動車510万台を購入し、アップルの携帯電話と米ビッグスリーの自動車の世界の売り上げの21%と33%を占めた。アップルの携帯電話とGMの最終組み立ては中国大陸部で行われることから、これらの購入は中国から米国への輸入には計算されていないが、利益主体で見れば、最大の受益者は米国企業と言える。