さてさて、ここからが、少し脳のトレーニングになると思いますが、中国からの製品輸入が減少し、小売価格が上昇し、同時にその他の国からの輸入又は国内生産が増加するという状況に直面したときに、上記以外のその他の予測できる長期的な事態はどのようなものであろうかということになると思います。この「経済学の小問題」、みなさんいかが考えられるでしょうか?
鍵となる懸案の一つは、対象製品が、最終製品だけでないということでしょう。今回の除外対象には、工業製品(これからさらに加工されるような原材料)のようなものも含まれているようです。そうなりますと、それらを加工して最終製品を生産する日本企業は原材料価格の上昇に直面する訳です。これが最終製品マーケットとの兼ね合いから、企業または消費者が差分を吸収することになるわけですね。ただし、もし、この最終製品が日本国内マーケット向けだけではなく、海外輸出される場合にはどのような価格構成(日本企業が単価・利益を下げるのか、海外市場消費者が単価・価格上昇を受け入れるのか)になり、またそれが国際的に競争力を持てる価格を維持できるのか検討する必要がありそうです。つまり、日本のお家芸であり、日本経済を支える、海外から原材料を安く仕入れて、加工して付加価値をつけ、高価格で海外に販売するという「加工貿易」のバリューチェーンプロセスのうち、ミクロ的観察として、個別企業にとっては海外から「安く仕入れられない」ということに直面するわけです(ちなみに、対象除外ではなく新たに対象となる中国以外の別の国からの輸入に切り替えることも十分に可能ですが、実質価格という意味だけでなく新たな取引先品質チェック・コミュニケーションコスト等の取引コスト高(Transaction Cost)になる可能性や、スイッチングコスト、これまでの埋没コストの発生などなど多くの問題点が挙げられます。)。
さらに、ステップを次に進めて考えてみましょう。そのような状況に加工貿易をする日本企業が直面した際に、当該企業は、中国からの原材料輸入による調達よりも、中国現地で原材料を調達し生産もする(そして、日本も含めその他海外に販売する)、いわば対外直接投資(FDI)を行ったほうがコストベネフィットが高い、という限界的(Marginal)なカッティングラインが見えてくると思います。ある程度の原材料輸入価格上昇までは、国内生産海外輸出(加工貿易)をすることのほうが、利潤が高いはずですが、何らかの一定の上昇のラインを超えたところで、国内生産から、海外生産(中国内生産)に切り替えるという企業も増加してくることになるでしょう。