日本ではお正月にお餅(もち)を飾り、またお餅を食べます。日本のお餅は、餅米を蒸して柔らかくして、その後、臼(うす)に入れて、杵(きね)でついてつくります。都会の人は、たいていは、お店で買ってきて食べます(写真1)。家でお餅をつくる場合、電気もちつき器でつくることもできます。私の家では、電気パンこね器でお餅を作ってみました(写真2)。日本では、お正月でのお餅の食べ方は、お雑煮・お汁粉に入れて食べる、焼いて食べる場合が多いようです。お餅は、お正月以外の時にもよく食べます。
写真1:お餅の売り場
写真2:電気パンこね器でお餅を作る
調査会社マクロミルが昨年11月下旬に日本全国の成人男女を対象に、インターネットで調査したところ、有効回答数1030のうち、お餅関連では以下の回答がありました(2008年12月6日付日本経済新聞報道。)
(1)お雑煮(ぞうに)を食べる・・・792
(2)鏡餅(かがみもち)を飾る・・・436
(3)鏡びらきをする・・・253
それぞれについて以下の通り説明します。
写真3:お雑煮
(1)お雑煮:正月三が日は、お雑煮を食べます(写真3)。これは、お餅、野菜、鶏肉、魚などを入れたスープです。味付けは、日本の地方によって差があります。関西では白みそ仕立て、関東ではしょうゆ仕立て(おすまし)と分かれますが、全国的にはおすましが多いようです。私の家もおすましです。
写真4:鏡餅の売り場
写真5:鏡餅
(2)鏡餅:二段重ねのお餅を飾ります。私の家ではお店で売っているもの(写真4)を、買ってきて家に飾りました(写真5)。この写真の鏡餅は、ずいぶん簡略化されていますが、正式には、お餅以外に、橙(だいだい)、昆布、ユズリハ(葉っぱ)などを飾ります。鏡餅という名前は、形が丸くて、昔の鏡に似ているから、そのような名前がついたそうです。
写真6:お汁粉
(3)鏡びらき:1月11日は、鏡餅をおろして、食べます。これを「鏡びらき」と言います。私の家では、お餅をお汁粉に入れて食べました(写真6)。お汁粉は、小豆を煮た汁(甘い味付けです)の中にお餅を入れたものです。
日本のお餅は、もとは、中国で固い飴を食べる習慣にあやかって、宮中で「歯固め」の儀式として始まったことに由来するということです(飯倉晴武氏編著『日本人のしきたり』青春新書)。
日本の民俗学者によれば、「鏡餅は正月にやってくる年神への供物もしくは依り代であり、雑煮は人間が神様とともに食べる神聖な食事だとされている」(安室知・国立歴史民俗博物館教授、2008年12月30日付日本経済新聞)。「依り代(よりしろ)」というのは、そこに神(霊)が宿る(とりつく)と考えられた物(媒体)です。
中国でもお餅と似たようなものに「年糕」(ニェンガオ)」、「糯米糕」(ヌオミーガオ)があり、「年年高(ガオ)」「歩歩登高(ガオ)」と、「ガオ」の音が通じるので、お餅は中国で縁起が良いと聞いています。明代の北京の人は餃子とともに「年糕」を食べたそうですが、清の末期には、餃子が新年の最も重要な食品になったそうです(『中国民俗史』人民出版社)。日本では、新年に餃子を食べる習慣はなく、お餅が一番重要な主食です。(お餅以外に、おせち料理を食べます。)今の中国では、日本ほどにはお餅をたくさん食べないかもしれませんが、それでも一部の地方では、お餅を春節に食べると聞きました。中国の北方地方、例えば山東省では、春節の間、餃子のほかに、キビで作られた黄色い「年糕」を食べると聞きました。ちょっと大きくて硬く、棗(なつめ)を入れたもので、蒸して或いは炒めて食べるそうです。上海などでは春節の時に「年糕」を食べるそうです(『中国民俗通史』山東教育出版社)。昆明などの少数民族の地区では、日本のお餅のようものがあると聞いたこともあります。東北地方、例えば吉林省の延吉では朝鮮族風のお餅を食べるそうです。
中国語でも「餅(ビン)」という食べものがあり、日本の「餅(もち)」と漢字が同じですが、実体は全く異なります。(中国語の「餅(ビン)」は、小麦粉を用いて火を通した、平たく丸い食品を言います。)
日本のお餅は、特につきたては、弾力性があります。女性の美しく弾力性のある肌をほめる表現で、「もち肌」と日本では言うのはそのためです。またお雑煮、お汁粉の写真を見ていただくとわかるかもしれませんが、お餅には粘着性があります。そのため、お餅をあわてて食べると、のどにくっついて、詰まって窒息死するおそれがあります。特に高齢者には注意が必要です。もし中国の人が日本でお餅を初めて食べる時には、この点に十分注意してください。
(井出敬二 前在中国日本大使館広報文化センター所長)
「チャイナネット」2009年1月12日