中国では、随唐の時代から宋、明の時代と、成人の儀式(男性の「冠礼」;女性の「笄礼」)は大変重要でしたが、清の時代に漢民族の伝統が衰退し、民国時代にも伝統的な「冠礼」が行われることは非常に希であったという説明を読みました(『中国民俗史』人民出版社)。
他方、チャイナネット報道などを拝見して、最近は、
と、伝統的な成人式の儀式をする人がでてきていると知りました。武漢市は2002年、毎年5月16日を「武漢市18歳成人の日」に定めたということです。
また中国の高校でも「成人儀式」が行われていると聞きました。
日本では「成人式」の式典が、毎年1月の第二月曜(「成人の日」という国民の祝日で休み)、日本全国各地で行われています。本年は1月12日でした。(地方によっては、1月11日に式典が行われたところもあります。)
満20歳の人たちが、「新成人」として、地方自治体(市町村)などが主催する式典に参加します。自治体の長の挨拶、講演を聴いたり、記念品をもらったりします。ディズニーランドがある千葉県浦安市では、毎年ディズニーランドに新成人が招待されます。1月11日と12日のテレビニュースでは、日本各地で行われた成人式の模様が放送されました。インタビューに答えて新成人達は、「早く自立して立派な大人になりたい」と述べていました。また成人式に参加したスポーツ界の有名人などがテレビで紹介されていました。
2009年を20歳で迎えた日本の新成人は、133万人いるそうです(総務省発表)。
写真1
「新成人」の女性は、美しい着物(「振り袖」)を着て記念写真をとるのが習慣となっています。私の娘も昨年満20歳になりましたが、着物を着て記念写真を撮りました。この「成人の日」には朝早くから、着物の着付けの仕事をしている人、貸衣装屋、美容院、写真屋は早朝から大変混雑しており、事前に予約をしておく必要があります。成人式では、小学校以来のかっての同級生たちと久しぶりに会えるので、成人式に参加した後、みなと一緒にお酒を飲みに行くのを楽しみにしている新成人も多いようです。街では、成人式の後、パーティーなどに参加したグループの若者達の姿が見られました(写真1)。
写真2
私の家は神奈川県川崎市にあるので、娘は川崎市および川崎市の関係団体が主催した成人式に参加しました(写真2:招待状とともに川崎市から娘に郵送されてきたパンフレットの表紙)。
日本では古来、男の子が大人になる儀式が行われており、682年には儀式として制定されており、奈良時代(710年~794年)にはすでに「元服」とよばれていたそうです。かっての日本では男の子は15歳くらいから、女の子は13歳くらいから大人扱いされていました(飯倉晴武氏編著『日本人のしきたり』青春新書より)。
かっては1月15日が成人の日でした。それは1947年以来そのように定められていました。なぜ1月15日なのか、という点については、昔は数え年で年齢を数え、一月の満月(=15日)の明るい夜の日を選んで「元服式」をやったから、という説もあります。
(中国では、旧暦の1月15日は、「元宵節」で、灯籠を飾ったり、お団子を食べたりします。私も、北京にいた時、朝陽公園での灯籠祭りを楽しみました。しかし、日本の1月15日はそのような習慣はありません。他方、日本では1月15日は「小正月」と言われ、小豆がゆを食べる習慣がありました。)
成人の日は、2000年以降、1月の第二月曜日に変わりました。このようにして、三連休になっています。(連休を増やそうという考え方によります。)
日本では一般的に、20歳をもって、大人になると見なされています。ただし、娘はまだ大学生なので、学費と生活費の面倒を私がみています。国民年金保険料(注)は、20歳から払うことが求められていますが、娘は学生で収入がないため、私が立て替えて払っています。本年は、国会の衆議院で9月までに選挙が行われますので、娘は初めて選挙で投票することになります。選挙権は戦後、全ての20歳以上の日本国民男女に与えられました。(戦前は25才以上の男子のみ選挙権をもっていました。)そのような背景で、「成人式」という「通過儀礼」も社会的な意味づけが与えられ、成人のお祝いとともに、社会人として自覚をもつことが期待されています。形式的な式典だけではなく、実質的に責任を担っていくという「成人」の自覚をもってもらうためにはどうしたらよいかという議論が、日本では毎年行われています。
(注)国民年金保険料の月額は、14,100円(=約900人民元)です。日本では、25年間以上、国民年金保険料を支払えば、老後に年金をもらえます。学生など、収入がない人は、保険料支払いが猶予される仕組みもあります。老後の年金以外に、国民年金保険料を納めていれば、事故にあった時の障害年金がもらえます。
就職していない学生は20歳になってもまだ一人前ではない、という見方もあります。逆に、世界において選挙権が18歳で与えられる国が多い中で、日本は20歳となっており、遅いのではないかという意見もあります。このように、本当の成人は何歳なのかということで、案件によりいろいろな「成人」の意見があり、いわば「幅がある」状況があると言えるかもしれません。
写真3
川崎市が新成人に配っているパンフレットの中には、20歳になったら、「選挙で棄権をしないように」「国民年金保険料を納めましょう」(写真3)といった新成人の権利と義務についてのお知らせが書いてあります。また「感染症(結核、風しん、エイズ)について正しい知識をもって予防しましょう」、「レジ袋を削減するために買い物にはマイバッグ(自分の袋)を持ちましょう」という呼びかけも書いてあります。
日本で年齢による区分がある主な法律は以下の通りです。(2008年12月4日付日本経済新聞記事「『大人』は20歳か18歳か」を参考にしました。)
●民法:成人年齢を満20歳以上と定めています。この民法の規定は、1898年(明治31年)の施行から110年間、変わっていません。但し、結婚できる年齢は、男性は満18歳以上、女性は満16歳以上と定めています。
●公職選挙法:選挙権をもつのは満20歳以上
●少年法:保護の対象である少年の範囲を満20歳未満と定めています。他方、死刑は満18歳以上に執行できると定めています。
●未成年者飲酒禁止法:飲酒できるのは満20歳以上
●未成年者喫煙禁止法:喫煙できるのは満20歳以上
●国民投票法(2007年成立):憲法改正の国民投票をできる年齢は原則満18歳以上。この法律は2010年5月に施行される予定。同法の付則は、試行までに、「公職選挙法、 民法その他の法令について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」と規定しています。
以上を受けて、民法上の成人年齢(満20歳)を満18歳に引き下げるかどうかという議論が日本で行われています。法務大臣の諮問機関の民法成年年齢部会は、昨08年12月26日に中間報告をまとめ、これが公表されました。報道によれば、引き下げの是非については、賛否両論が記述されたということです。
中国での年齢による主な区分については、以下の通り整理してみました。
●選挙権:満18歳以上
●結婚:男性は満22歳以上、女性は満20歳以上。
●たばこ:「未成年者にはたばこを売ってはいけない」という地方レベルの法規があると聞きました。未成年者と言えば、普通は満18歳未満の人と理解しています。全国的な法律はまだできていないと聞きました。
●死刑:刑法によると、満18歳未満には死刑を適用しない。
現代の中国の若者がどのようにして独立し社会を担う「成人」になったと自覚を持っていくのか、「成人」としての権利をいかに行使し義務をいかに果たしていくのか、私はとても関心があります。このブログの読者の皆さんからもご意見を聞きたいと思います。
(井出敬二 前在中国日本大使館広報文化センター所長)
「チャイナネット」2009年1月19日