第39回 中国人留学生の戸惑い③「こんにちは」は「你好」ではない

japanese.china.org.cn  |  2009-03-06

第39回 中国人留学生の戸惑い③「こんにちは」は「你好」ではない。

タグ:中国人留学生の戸惑い  日本 「こんにちは」 ,井出敬二

発信時間:2009-03-06 17:30:17 | チャイナネット | 編集者にメールを送る

以前、チョウ・セイさんという東京に住んでいる中国人留学生(24歳)からの「マナーより本音を」と題する新聞への投稿を紹介しました(本年1月26日付の東京新聞の投書欄に掲載)。今回も、チョウ・セイさんの投書文から引用して、日中の習慣の違いについて、考察したいと思います。

 

1.日本語の「こんにちは」は外国語で何と言うか?

今回は、あいさつについて、日中が違う点を紹介します。チョウ・セイさんは、日本人のあいさつについて、以下のように述べています。

「さらに、日本人は知らない人同士でも、あいさつをするのが普通です。私はマンションの廊下とかエレベーターの中で、知らない日本人から『こんにちは』『こんばんは』などとあいさつをされますが、その人の顔には表情がありません。

中国では、同じマンションでも、知らない人とはあいさつはしませんが、仲が良い隣の人に会うと、あいさつだけではなく、いろいろな話もします。家族のこととか、子どもの勉強など、話す話題がいっぱいあり、廊下はいつもにぎやかです。あいさつだけということはありません。」

この文章について、私は以前、日中の人間関係の違い(友人と他人の間?)という観点から考察しました。

今回は、日中のあいさつの違い、という観点から考察したいと思います。

チョウ・セイさんによれば、中国人は知らない人どうしではあいさつをしないということです。そして、知っている人とはいろいろな話しをするということです。

日本人がよく使うあいさつと言えば、たとえば「こんにちは」があります。「こんにちは」は、英語で言えば、“How are you doing?”、ロシア語で言えば“dobrij den’”、フランス語で言えば”bon jour”です。私がこれらの言葉を話す国に暮らして、これらの国の言葉を勉強した時には、「こんにちは」の使い方は、日本と同じようなものだったと思います。つまり、知り合い、友人、職場の同僚、近所の人、そしてあまりよく知らない他人にも、会えば“How are you doing?”、“doblij den’”、”bon jour”を頻繁に使っていました。米国人、ロシア人、フランス人からも、同じこれらのあいさつ言葉を使ってあいさつをしてもらっていたと思います。

中国に赴任する前に日本で中国語を勉強した時、「こんにちは」=「你好」だと習いましたので、使い方も同じだと思っていました。そして、北京で暮らしていて、中国人の知り合い、友人、職場の同僚、近所の人に会うと、必ず「你好!」と私は言っていました。

 

コメントはこちらへ


2.日本の中国語専門家達の指摘

しかし、中国語の専門家たちは、「你好」は「こんにちは」と使い方が違うと指摘しています。専門家にとっては常識かもしれませんが、私にとっては大きな驚きだったので、彼らの指摘を以下の通りご紹介したいと思います。(以下、引用する二人の専門家は、ともにNHKのラジオ、テレビの中国語講座を担当される等、日本における中国語教育で著名な方たちです。)

(1)上野恵司氏著『中国語60話 ことばの周辺』2001年、白帝社  「(中国語の)多くのテキストや会話書の第1課は、“你好!”“再見!”で始まっています。中国で編まれたものもそうですし、日本で編まれたものもそうです。・・・

一方、これもよく言われることですが、実際のあいさつでは、“你好!”は使われないという指摘があります。確かに中国人が日常生活において“你好!”というあいさつを交わすことは、まずありません。出がけに隣近所の人と顔を合わせたとして、“你好!” “你们好!”とはまず言いませんし、職場でこんなあいさつをしたりしようものなら、「あいつ大丈夫かな?」と思われかねません。

それでは、“你好”はまったく使われないのかと言うと、そうとも言い切れません。初めて会った時や、必ずしも親密ではない人どうしのきわめて儀礼的なあいさつ、友人や同僚などの間柄であっても、久しぶりに再会したような場合には、ごく普通に“你好”が使われています。・・・

それでは、日本語の「やあ」「元気?」「こんにちは」などに相当する、いちばん普通のあいさつ語はなんでしょうか?

それはたぶん“吃了吗?”(食べましたか)でしょう。学校で、職場で、あるいは隣近所で、知り合いどうしが顔を合わせた時、一様にこう声をかけます。・・・

この種のあいさつ語は、・・・声をかけあうことでお互いの親密さを確認しあっているに過ぎず、問いにも答えにも、さしたる意味は含まれていません。そういうほとんど意味のない問いかけに、「食事は済んだか」というきわめて具体的な内容を持つ語を用い、答える側も、「済んだ」「まだだ」と、はっきり答えるところが、いかにも中国語らしいという気がします。」

(上野氏は、その他の中国語のあいさつとして、「上班吗?」(ご出勤ですか?)、「下班吗」(仕事はもう終わりですか?)、「你忙吗?」(忙しいですか?)という言葉も紹介しています。)

(2)相原茂氏『「感謝」と「謝罪」―はじめて聞く日中“異文化”の話』2007年、講談社

「中国人の挨拶の仕方というのは、日本人とは基本的に違っていまして、日本には決まり文句があります。『こんにちは』『いい天気ですね』『どちらへ?』というように。われわれはこの三つくらいをマスターしておけば困らないわけです。・・・

ところが中国語には基本的にそういう決まり文句がないので、臨機応変にいわなければなりません。相手が何をしているかを観察して、それにあわせて、『お買い物ですか』、『散歩ですか』、『出勤ですね』『ご飯食べたの?』など、臨機応変に挨拶の言葉を発するのが中国です。

基本的には、相手が今していることに言及する、というのが中国式挨拶です。・・・それはとりもなおさず、『私はあなたの存在を認めていますよ』ということになるわけです。」

 

コメントはこちらへ


3.結論

このような日中の習慣の違いを前にして、チョウ・セイさんが、日本人から「こんにちは」とだけ言われたことは、いろいろな意味で違和感があったのだろうと想像できます。

中国式のあいさつには確かに親密さがあって良い面もあると言えます。でも、中国語があまりできない外国人にとっては、会話のやりとりは難しい面があり、簡単なあいさつ語を一つか二つ言って済ませたいと思うこともあります。また、「何をしているのか」ということを言われたり、問われることに抵抗感を持つ日本人もいると思います。日本でも「どちらに行きますか?」という問いかけをすることも、確かにあいさつの一つとしてありますが、そう聞かれるとプライバシーを侵されているように感じて、嫌な思いをする日本人もいます。親しい友人どうしのあいさつならば、問題ないかもしれませんが、あまり親しくない人どうしだと、問題があるかもしれません。

日本では「おはよう(ございます)」「こんにちは」などのあいさつをすることが、家庭、学校、職場で奨励されています。このことについて、中国人は形式的に感じるのかもしれません。しかし在日中国人が日本国内で、日本流のあいさつを無視したら、日本人に悪い印象を与えるでしょう。(中国ではレストランの入り口でよく若い女性が「歓迎光臨」と大きな声で言っています。私は、最初は不自然で形式的に感じましたが、慣れると面白いなと感じました。)

結局、習慣のちがいがあるということをまずはよく理解して、「郷に入っては郷に従う」こと、そして相手によって使い分けることが必要ということかもしれません。

(井出敬二 前在中国日本大使館広報文化センター所長)

  コメントはこちらへ

「チャイナネット」2009年3月2日

 

 

Twitter Facebook を加えれば、チャイナネットと交流することができます。
中国網アプリをダウンロード

日本人フルタイムスタッフ募集     中国人編集者募集
「中国網日本語版(チャイナネット)」の記事の無断転用を禁じます。問い合わせはzy@china.org.cnまで