2月22日、米国のアカデミー賞外国語映画賞の発表が行われ、日本映画「おくりびと」が受賞しました。日本独特の葬式の習慣を描いたこの映画が、アメリカ人にも認められ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したことは、死者の弔い方についての日本の習慣がある程度普遍的な共感と理解を得ることができたのではないかということで、日本でも大変大きなニュースとして報道されました。私もこの映画を見たので、この映画を紹介しながら、日本人の死生観について論じたいと思います。
1. 映画「おくりびと」について
「おくりびと」というのは、「死んだ人を『あの世』(死後の世界)に送るひと」という意味です。必ずしも一般的に使われる日本語ではなく、この映画によって知られるようになった表現です。この映画の英語名は「Departures」となっています。
この映画(滝田洋二郎監督。2008年完成)は、日本で遺体を棺に収める仕事をする男性(「納棺師」とよばれます)を描いたもので、日本でも異色の映画といえます。2008年9月に日本で公開されてから、12月までで興行収入が30億円とヒットとなっているそうです。(お葬式関連では、伊丹十三監督の「お葬式」(1984年)という大変面白い映画もありました。)
米国アカデミー賞の外国語映画賞が独立部門として創設されたのは1956年ですが、それ以後、日本の映画がこの賞を受賞するのは今回が初めてです。(有名な中国人監督アン・リー氏は、2000年「グリーン・デスティニー」で外国語映画賞を受賞しています。)
「おくりびと」は、日本の映画の賞である「日本アカデミー賞」でも10部門で受賞しており、またモントリオール世界映画祭でもグランプリを受賞しています。米アカデミー賞を受賞する前から、既に、米国、カナダ、フランス、オーストラリアなど36カ国での劇場公開が決まっていたそうです(2月24日付日本経済新聞報道)。
映画の主人公は元チェロ奏者で、オーケストラが解散したため、ふるさとの山形県に帰り、遺体を棺に収める仕事に就きます。いろいろ戸惑いながら仕事をしながら、だんだんと尊敬の念をもって死者を送り出すことを覚え、この仕事の意義を理解していく様子が映画では描かれています。
主人公を演じた俳優の本木雅弘氏は、15年前にインドのガンジス川で死体が流れているのを見てから死生観について深く考えるようになったということです。そして、納棺師の青木新門氏が書いた本「納棺夫日記」を読んで、納棺を題材に、日本人にとっての死について正面から取り上げた映画を作りたいと考えたそうです。
米国の映画業界紙『ハリウッド・リポーター』は、この映画を「死に対する畏敬の念を通して生を称える感動作」と評したそうです。日本の映画評論家の品田雄吉氏は、「日本のしきたりや日本人の気持ちを描いた作品が、世界に認められたのは意義深い。」と述べています(2月23日付朝日新聞報道)。
米ロサンゼルス在住のアニメーション作家のラウル・ガルシア氏は、「ここ何年かの間に私が見た中で最高の映画だ。日本にこんな儀式があるとは全く知らなかったが、愛する者を送る気持ちは普遍的でよくわかった」と述べています(2月24日付毎日新聞報道)。
米国人がこの映画を高く評価した背景には、「9.11」以降の状況も関係あるとの評論も出ています。
(なお、この映画の音楽は、中国でも有名な久石譲氏が担当しています。)