2. 「納棺師」とは何か?
日本では普通は人が死ぬと、遺族は葬儀屋にお通夜、葬式、火葬場の手配などの準備を依頼します。葬儀屋は多種多様な仕事をこなしますが、仕事の一つは、遺体を清め、「旅立ち」の衣装を着せ、男性は髭を剃り、女性は化粧を施して生前のまなざしをよみがえらせることもあります。この仕事を特に取り出して専門に行うのが「納棺師」の仕事です。納棺の前に一時間ほどかけて遺族とともに儀式を行うそうです。
日本で「納棺師」とよばれる専門家は必ずしも多くはないようです。札幌市に本社があり、全国展開している納棺専門業者の方が日本の新聞のインタビューで以下を答えています。(2月25日付東京新聞)
―納棺の専門の会社をつくったのは1969年。きっかけとなったのは、1954年に青森と函館を結ぶ連絡船が台風のために沈み、1400人以上が亡くなった際、損傷のはげしい遺体を清めて遺族に引き渡すのを手伝ったのがきっかけとなった。
―同社は、日本でおそらく唯一全国展開している会社である。約130名の納棺師がいる。一人当たり年間数百人の遺体に向かう。
3. 日本人の死生観
この映画の原作を書いた青木新門氏は、「『生と死はつながっている』という死生観と命の尊さや人とのつながりが描かれた作品自体のおもしろさが絶妙なバランスを生んだ」と述べています。そして完成したこの映画では、「単に死体の処理ではなく、亡き人を送り出す厳粛で重みのある姿勢」が示されたと評価されています(2月24日付日本経済新聞)。
この映画から感じられるメッセージは、まず生きている人はいずれ死ぬ、ということです。また遺体を扱う仕事に対する偏見に対しては、死者を敬意をもって送り出すことの意味を対峙させています。また死に対して、家族のつながりを対峙させています。
「もともと遺体を生前の姿に修復する技術エンバーミングは、アメリカで発達したものだ」(2月25日付東京新聞)ということですが、日本では特に遺体を丁寧に扱い、死者への敬意を表します。日本では、日本語では「死体」といえば物体を指す表現ですが、「ご遺体」に対しては、いわば人格を有しているものとして、敬意と配慮をもって扱わないといけないとされます。
青木新門氏は、『生と死はつながっている』と述べています。映画の中でも、死を通過する「門」としてとらえている表現が出てきます。日本人の死生観の特徴は、死後の世界(あの世)があると信じる人が多いことです。中国でも死者のために紙銭を焼いたりすることは聞いています。中国人の友人に聞くと、中国人は死後の世界を信じていないと言われます。現代の中国人が死後の世界の存在を信じているのかいないのか、私にはよく分からないので、調査などがあれば是非教えて頂きたいと思います。
日本人に対して行われたあるアンケート調査で、「死後の世界(あの世)があると思いますか?」という問いに対して、「あると思う」と「ないと思う」と答えた人がともに29.5%、「あると思いたい」と答えた人が40%もあったそうです。しかも死後の世界の存在を信じるのは、年輩者には少なく、むしろ若い人に多いという傾向が見られたそうです。
また、「死者の霊(魂)(の存在)を信じますか?」という問いに対しては、「信じる」と答えた人は54.0%、「信じない」は13.4%、「どちらとも言えない」は32.0%でした。
「生と死の世界は断絶か、それとも連環していると思いますか?」という問いに対しては、「断絶している」が17.4%なのに対して、「どこかで連環している」は64.6%、「わからない」が18.0%だったそうです。
(以上、立川昭二著『日本人の死生観』1998年、筑摩書房。以下の記述も同書より引用)。