むしろ、課題は需要面にあるのではなく、供給面、つまり人的リソース(翻訳者)の不足にあるのではないか。もし潜在的ニーズを掘り起こすことで将来的に翻訳市場の拡大が進んだとき、約30000人というフリーランス翻訳者だけでは受け皿としては足りないだろう。
では、供給面を補うためには何をすべきか、そこで考えるのは、翻訳業界独特の労働形態である「業務委託制度」の有効活用である。昨年、日本国内では団塊世代の一斉退職が始まった年、いわゆる『2007年問題』が話題になったが、企業で長年培った経験や実績を活かす場として、産業翻訳業界は非常に適していると思われる。なぜなら、産業翻訳は語学力と専門技術・知識を兼ね備えて初めて成り立つ仕事であるからだ。自分が長年培った専門技術・知識を活用するには、産業翻訳は最も適した業界のひとつと言えるのではないか。また、PCインターネットなどの作業環境さえ整っていれば、働く時間や場所も融通が利く。中国では兼業の翻訳者が多いと聞くが、日本の場合は、兼業だけでなく、例えば、定年退職された人々や事情によりフルタイムで勤務できない人などにもビジネスチャンスは拡がるはずである。雇用・労働形態の多様化も見据えた上で、業界としてもっと裾野を広げ、翻訳業界に新たに入って来る人の数を増やす努力をしていく必要があると思う。需要と供給のバランスが、産業翻訳業界の今後の市場拡大には不可欠である。
バランスといえば、「品質、スピード、価格」というサービスの3要素のバランスも大切だ。重要なことは、翻訳サービス業として、顧客ニーズを的確に把握し、顧客に満足してもらうことである。そして、今後も顧客満足度の高いサービスを提供することにより、当社の経営理念である「産業技術翻訳を通して、国内・外資企業の国際活動をサポートし、国際的な経済・文化交流に貢献する企業を目指す」ことを実現していきたいと考えている。
最後になるが、私たち産業翻訳に携わる全ての人が、企業のグローバル化を「ことば」で支えているという誇りと広い視野をもち、互いに切磋琢磨しあう関係を築きあげることが業界のボトムアップに繋がると思う。私は自社の経営を通して、また、JTF会長として、自社と外郭団体と両方の立場から「産業翻訳業界の地位向上」のため日々尽力していく所存である。
「人民中国インターネット版」より2008年9月5日