現代日本文学が中国語になるとき──大江健三郎・村上春樹・渡辺淳一のばあい

人民中国  |  2008-09-05

現代日本文学が中国語になるとき──大江健三郎・村上春樹・渡辺淳一のばあい。

タグ:現代 日本 文学 中国語

発信時間:2008-09-05 17:24:44 | チャイナネット | 編集者にメールを送る

村上春樹の「土着化」現象

さまざまな版の『ノルウェイの森』中国語訳 翻訳は外来文化を土着化するいっぽうで、本土文化を変革する――思い切って単純化すると、これが翻訳の文化的社会的作用といえよう。外来文化の土着化は中国語では「帰化」、英語ではdomesticationと言い、本土文化の変革はそれぞれ「異化」とforeignizationと称する。1989年に刊行された中国版『ノルウェイの森』は表紙を着物姿のセミヌードで飾り、本文には「第6章 月夜裸女(月夜のヌード女性)」「第七章 同性恋之禍(レスビアンの不幸)」といった原作にはない怪しげな章題名を付しており、ほとんどポルノ小説の装いだった。80年代の中国では性描写は少なく、『森』を装幀と章題とによりポルノ風に改造したのは、広義の翻訳にともなう外来文化の土着化といえよう。

しかし1989年の中国の若者は『森』をポルノとしてではなく、喪失の文学として受容し、その後は版が改まり版元が変わるたびに表紙はより洗練された装幀に更新され、もちろん怪しい章題も外された。これは鄧小平時代も後半の90年代に入ると、中国が政治経済文化の各方面に大きな変化を生じたためであろうか。それとも村上文学の影響で中国の読書界、出版文化の体質に変化が生じたためであろうか。後者を重視したばあい、中国の『森』のポルノから純文学へという変身は、翻訳による本土文化変革の好例といえよう。

WTO加盟以前の中国には、多くの村上文学翻訳者がいたが、その中で最も著名だったのは林少華(リン・シャオホワ、りんしょうか、現在は青島海洋大学外国語学院)教授である。そして上海の出版社が2001年に中国語簡体字版の版権を取得して村上シリーズを刊行し始めた際には、林教授が1人で全シリーズの翻訳を担当し、現在に至るまで30点以上を単独訳して、世界最大の村上翻訳家となっている。

そのいっぽうで、台北の出版社が繁体字版の版権を取得して、やはり同様の村上シリーズを刊行しており、また香港の出版社も90年代前半に繁体字版翻訳を3点出版している。このため『森』『羊をめぐる冒険』そして『ダンス・ダンス・ダンス』という村上小説3作には、それぞれ3種の中国語訳が存在しているのだ。

3種の翻訳を比べると、上海の林訳書は美文化の傾向を示しており、台北版は頑固なまでの直訳調を特色とし、香港版は中庸的な文体を特徴としている、と言えそうだ。文化論的に言い換えると、林訳が最も大胆に村上文学を中国文化に土着化しており、台北版が本土文化を急進的に変革している、ということになるのだろう。

最後に過去2年間だけでも中国では山岡荘八から西加奈子まで180冊の翻訳日本文学が刊行されていることを申し添えておきたい。

「人民中国インターネット版」より2008年9月5日

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