日本の作家・井上ひさし氏逝去のニュースは中国で波紋を呼んでいる。中国の作家や日本文学研究者は相次いで、井上氏の死を悼み、中国作家協会は井上氏を偲ぶ弔電を送った。
日本ペンクラブ会長在任中、中国作家協会代表団訪日の受け入れを初め、中国との交流活動を意欲的に推し進めてきた井上氏。逝去のニュースを受け、これまで井上氏と交流をしてきた関係者に話を聞いた。
■「自転車で北京を回りたい!」
中国社会科学院外国文学研究所の許金龍研究員は「たいへんショックを受けている。悲しいニュースです」と話し、これまで進めてきた井上文学の中国語での翻訳出版の予定や、2年前から井上氏ご本人と練ってきた「中国訪問」の計画を初めて明らかにしてくれた。
中国人大学生10人による「晩年の魯迅」のステージを鑑賞すること。
社会科学院で講演し、莫言、鉄凝など中国の代表的な作家と交流会を行うこと。
宿泊は北京大学の学生寮で、食事は大学生と同じく学食でとること。
昼間は中国の作家や大学生たちと親交を深め、夜は毎晩、映画や芝居、漫才の鑑賞をすること。
自転車2台で妻と二人で北京の町をぶらぶらすること…
もう実現は不可能になったが、これが中国社会科学院の訪中要請を受け、井上氏が出した「注文」だった。順調ならば、2009年10月に行われる予定だった。昨年半ば、「10月は日程の調整ができず、予定を一年後に引き伸ばす」という連絡が入り、また、北京のほか、日本軍の空襲を受けた重慶と兵馬俑が見られる古都・西安の訪問も追加された。さらに、中国人作家の友人たちへのお土産の相談までして、中国訪問を楽しみにしている様子だった。
昨年秋、肺がんが見つかり、入院後も「訪中日程は今のところ、変更なし」と許氏が訪日した際に伝えたとのことだ(写真は許金龍氏が2008年訪日した際の記念撮影)。
■ 井上作品集、中国で翻訳出版を準備中
訪中要請は大江健三郎氏の推薦によるものだった。
大江文学の翻訳者でもある許氏が、「日本の代表的な作家を紹介してください」と大江氏に頼んだところ、一歳年上の親友で、同じく日本の平和憲法を守る「九条の会」のメンバーである井上ひさし氏を紹介したことがきっかけだった。
大江文学が数多く中国で翻訳されているのに対し、井上氏の作品は『父と暮らせば』など少数の戯曲しか文学雑誌で翻訳、掲載されておらず、単行本もまだ出されている。
「井上作品の翻訳、出版の打ち合わせのため、今月末にも出版関係者と訪日の予定です。まずは戯曲、小説、エッセイなどの三冊からなる作品集を出します。作品リストの選定は大江氏に頼んでいます」、と許氏は現在進めている出版計画を紹介した。