今回のこの人類の産業の歴史を変えてしまうような発見は、現在の世界の微妙なバランスで均衡している国家間のバーゲニングパワーを、「あまりにも急激に」変化させてしまうことになりかねないでしょうか?つまりそれは、石油資源という近代産業化を牽引してきた絶対的な価値が崩壊すれば、石油生産国の絶対的・直接的な国際影響力が下がるだけでなく、石油に関連した金融・物流取引は存在意義を問われます。さらに、バリューチェーンを総合的に考慮して石油依存率の高低は各産業の利益率を決定する要因のひとつになっていますが、この石油調達コスト(および石油関連生成物調達コスト)が激変するので、ある産業は相対的に利益率が飛躍的に向上することになるでしょう、そうすると、その産業価値(株価)も大きくプラスに変化し、その産業に資金が流れこみ、他の産業価値(株価)に影響をあたえるかもしれません。
このように、ミクロレベルで個別企業の大きな変化、産業構造上の利益率の変化、金融市場での多様なウェイトの変化、そして、国際的な国家全体の価値変化がおとずれることで、どんなバランス変化が訪れるか想像することは難しいこととなります。
これまでにも、石炭火力発電、石油発電、原子力発電、風力発電、蓄電池技術、エコロジー節約技術などなど、多くのエネルギーに関する画期的発見、発明がありましたが、それはあくまでも、「ゆるやかに社会に浸透(absorb)」されていったものであります。
しかし、この画期的発明が飛び抜けすぎていた場合、「社会浸透」のバランスを崩すかもしれない。そしてそのときに、産業レベルならばまだしも、国家間でバランスを崩したときに、ある国にとって「大きな不満」そして「戦争の火種」にならないとも限らないわけです。
日本という、一国だけで見た場合、産業の高度化に反して、明らかな天然資源不足でありますから、「自国のみ・短期的」にはこの世紀の大発見「10倍石油藻類」が実現してくれることが望まれます。しかしながら、これは、「国際的・長期的」視点にたった場合は、日本は世界という外部環境からのマイナス要素・国際的および国内産業構造変化がどの社会セクターに影響するのかということも検討し、事前に対処をしておく必要があると思われます。
(中川幸司 アジア経営戦略研究所上席コンサルティング研究員)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年12月20日