桃太郎の漫画
尚武の精神は強者への憧れ
尚武の精神(武道・軍事などを大切なものと考えること)は「桃太郎精神」の根本にあると言える。生存競争において、尚武の精神はなくてはならない貴重な考え方である。小さい国の国民ならなおさら必要だ。戴季陶氏が言うように「小さな国の国民が発展を望むのなら、尚武の精神は不可欠である。」日本人の尚武精神と言うのは、少し違ったニュアンスがあるようだ。
「桃太郎」の中での鬼たちの行動も着目して見ると、深い意味がありそうだ。彼らは自分たちより強い相手に出会うと、おとなしく負けを認めている。そして桃太郎は勝者として当たり前のように敗者の財宝を奪っている。ポイントは、これが逆の状況だったらどうなっただろうかという事である。もし、桃太郎が負けていたら?言わなくとも想像が付くだろう。きっと桃太郎は鬼たちの前に土下座して、命乞いをするはずだ。
これと似たような状況を私は日本に留学していた時に、目撃したことがある。
それは居酒屋での出来事だった。厨房の責任者である石井さんは、私たち留学生をこき使っていた。陳さんは彼の助手だったので、不満も人一倍だった。ある時、石井さんは陳さんに餃子を茹でるよう言った。陳さんがうっかりミスをして、熱々のスープは石井さんの顔にかかってしまった。頭に血が上った石井さんは、陳さんの襟首を掴み、壁側まで引っ張っていくと、「バカ野郎」と怒鳴りつけた。陳さんは自分が悪いと分かっていたので、口答えはしなかった。一方の石井さんは怒りが収まらず、「お前ら中国人はみんな怠け者だ」と暴言を吐いたのである。これを聞いた陳さんもさすがに怒り心頭といった感じで、石井さんを思いっきり蹴り飛ばしてしまったのだ。石井さんは床に倒れ、私たちは、これはまずいことになったと思った。石井さんは立ち上がると、エプロンのほこりを払って、知らない人でも見るかのように陳さんをまじまじと見た。そしてなんと、ぷりぷり怒ったまま、再び自分の仕事に戻って行ったのだった。
次の日は気まずい雰囲気が漂い、誰もが石井さんが何かするだろうと思っていた。陳さんは最悪の事態を予想していた。しかし、驚いた事に、石井さんは陳さんに会うなり初めて自分から挨拶をしたのだった。昼食の時になると、石井さんが最初に声をかけたのも陳さんで、彼に盛られたおかずも他の人よりも多かったのだ。このようにして、陳さんの居酒屋での地位は大幅に上がったのだった。
(李兆忠氏の著書『曖昧な日本人』より 九州出版社)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2011年1月6日