文=コラムニスト・陳言
春の終りに茨城県日立市の熊野神社を訪れると、桜はもうとっくに咲いていた。
日本では、神社があるところには必ず桜の木が植えられている。熊野神社にも歴史ある桜の木がいくつか植えられており、枝や葉っぱが鬱蒼と茂り、空を覆っている。ここの桜は寿命が長くてたくましく、その太い幹は大人一人が抱えても手が届かないほどで、表面には青い苔が生えている。
靖国神社は軍人が奉納されている唯一の神社
日本の神社は、農村部や都会を問わず、至る所に大小さまざま数万単位で存在している。東京の街を歩いていても、ビルとビルの間に1人がようやく参拝できるほどの小さな神社があったり、高層ビルの屋上にも多くの神社があったりする。
和歌山県南部熊野山を起源とする熊野神社は熊野大宮大社、熊野那智神社、熊野、熊野速玉神社から成り、合わせて熊野三山と呼ばれ、「日本の信仰の原点」とされている。後に、各地で熊野三山の祭神勧請が広まり、熊野神社は日本各地に3000以上も分布するようになった。
他の地方の神社は、その多くが財産運や子孫繁栄を願うものであるが、工業都市である日立市の神社は、生産安全を願うものが主流である。熊野神社で毎年行われる大祭は、年頭の仕事始めと日立製作所の創立記念日の2つである。中祭は、2月3日の先祖供養祭、7月1日の安全祈願祭、12月1日の鎮火祭、12月29日の厄除祭の4つである。
木製の大殿は特にしっかりした構造で、福島原発から80キロも離れていないが、地震発生時にも神社内の石灯篭がいくつか倒れたが、この大殿は何ら被害がなく、毅然とそこに佇んでいた。
もし戦争がなければ、もし靖国神社の落とす暗い影がなければ、日本の神社は最も平和で包容力のある宗教的場所なのだ。近代日本の好戦的政策と密接な関わりを持つ靖国神社は他とは違う特別な神社で、戦死した軍人だけを、その死因に関わらず全て神社の目録に記載し、奉納している。しかし、靖国神社はその一社だけで、他に分社などは一切ない。
魂の安らぎをくれる花と酒