文=コラムニスト・陳言 | 勝又依子(翻訳)
茨城県日立市は東京から東に140キロ、福島の原発からは100キロ圏内の地方工業都市だ。私の乗った車は工業区を走り抜け、熊野神社の前で停まった。
神社の神職者は通常「宮司」と呼ばれ、職位は分かれているものの、他の宗教のように様々な肩書があるわけではない。神社の神職者=宮司と思ってよいだろう。
神社の入り口では作業着姿の鈴木さんが私たちを待っていた。作業場から出てきたばかりの彼からは、機械油のにおいがかすかに感じられた。左胸には彼が勤務する工場のバッジ、腕には緑十字の腕章、工場の安全管理をする立場かと思われたが、後になって彼が部長であることを知った。
そして鈴木さんは熊野神社の宮司でもある。
「毎年2回、大きな祭祀行事があります。会社の創立記念日である7月15日と、新年の仕事始めの日です」
鈴木さんは言った。境内には先日の大地震で倒れた石灯籠の痛々しい姿があった。
参道のわきには、手水舎という水が湧き出ている場所があり、参拝客は皆そこで手と口を洗い清める。
「大きな祭祀とは別に年に4回の祭祀行事があります。2月3日は祖先を祀り、7月1日は安全祈願、12月1日は火を鎮め、12月29日は厄払いをします」
鈴木さんは続いて説明してくれた。その安全祈願とは安全な稼働を祈るもので、工場が立ち並ぶこの場所にふさわしく、宮司を務めているのが工場の部長ということにも納得できる。
「昨年は会社創立100周年でしたので、7月15日には現職の社長に加えて元社長3人と前社長も参加し、熊野豫樟日命(生産の神)と天地創造の神を参拝しました」
鈴木さんは言った。