文=コラムニスト・陳言 | 勝又依子(翻訳)
工藤泰志さんと再会した中国人は口を揃えて言った。
“太った”——。この表現は今の中国では褒め言葉でも何でもない。50過ぎの外国人、とりわけ平均よりも太めの日本人に対し、当人に遠慮なくそう言えるということは、中国メディア界に身を置く彼らと日本の『言論NPO』の理事長を務める工藤さんがどれだけ親しいかを物語っている。
工藤さんには、筆が進まなくなると立て続けにタバコを吸うという、記者にありがちな癖がある。ただ、大多数の男性記者と違うのは、甘いものに目がない、というところだ。デスクにあるお菓子類を食べ尽くしてしまってもなお書けない、そんなとき彼はタバコに手を伸ばし煙の中で原稿と格闘するのだった。
工藤さんが“太った“ことは今回の大地震と少なからず関係している。
「私は青森県出身だから東北人の気質をよく分かっています。東北人は自分がどれだけ切羽詰まっていても、もっと困っている、助けを必要としている人がいると気遣い、救援は自分たちではなく他のもっと辛い状況の人たちに、と目を潤ませて言うのです」
彼は中国の記者たちにそう言った。地震発生後、原稿を書いていないときでもストレスを強く感じ、常に何かを口にせずにはいられなくなった。何を食べているのかを意識することもないまま体重だけが増えていった。
工藤さんのこの特徴を知る人は多くいる。数か月かそれ以上ぶりに再会すると、彼がその期間どんな状態にあったのか、比較的リラックスしていたのか、それともストレスが多かったかを体型の変化から判断できるのだ。ひとまわり肥えた工藤さんが、旅の疲れを滲ませつつ目の前に現れれば、記者たちは彼の地震後のストレスにさらされた日々を容易に想像できるのだった。
工藤さんが東北人について語った時、中国人記者の多くは普通の日本人の姿を思い浮かべた。今回あれだけ大規模な地震と福島原発事故が発生したにもかかわらず、海外に助けを求める日本からの声はほとんど聞こえてこなかった。東京電力はアメリカにも、IAEAや関連組織にも自ら援助を求めなかったので、いったい日本の政府や企業は何を考えているのか!?とまで思わせることとなった。しかし工藤さんの言葉を耳にしたことで、日本人の気質を知り、人に頼らずに自分で困難を克服しようとするその態度に納得すれば、日本に対する敬服の念までもがわき起こってくるのだった。