歴史の偶然と必然
「ミセス・ワタナベ」と「中国のおばさん」はいずれも金融業界に大きな影響を与えたわけだが、両者を比べてみるとある共通点が浮かび上がる。
国の経済力の増加は国民の富の増加を伴い、それによって国民は投資に乗り出すことが可能となる。日本の場合、80年代から90年代にかけて、日本経済が世界2位に躍進した時代、海外投資は「米国を購入する」勢いで大幅に増えた。統計によると、日本の一般家庭の金融資産総額は1500兆円で、うち55%が現金および銀行に預け入れされており、世界最大規模の投資可能資産と考えられている。これらの資金はすべて一家の「大蔵大臣」である主婦が握っているわけで、「ミセス・ワタナベ」がFX市場で腕を鳴らすはずである。「失われた20年」を経ると、急成長を実現した中国が日本を追い越し、2010年に世界第二の経済大国となった。国力増加は中国人民を豊かにし、3月末までに人民の貯蓄額は43.7兆元に達した。その規模はドル換算で7兆ドルに上る。理論上では世界の金の貯蓄量の約3倍の15万トンの金が購入できる額だ。
中国では長きに渡り貯金が資産運用の主な手段であったが、国内外の流動性が持続的に緩和され、インフレ圧力が高まると、人々は「お金の価値の低下」を意識するようになり、「銀行に預けても損」と考えるようになった。2010年~2012年の3年間において、物価の上昇要因を除いた年間の銀行実質利子率はそれぞれ-0.8%、-1.9%、0.4%であった。そうした状況の中、「財産は運用しなければ増えない」といった観念が広まり、人々は他の資産運用方法を探るようになった。
しかし、銀行預金以外の投資はスムーズにはいかなかった。
近年、「金融機関離れ」という概念をよく耳にするが、銀行体系外の資金が増えると、銀行以外の投資ルートの充実化を図りこれらの資金を消化する必要がでてくる。理論的には、銀行理財商品を除き、住宅市場、株式市場、債券市場なども役割を発揮することが可能となる。しかしながら、ここ数年株式市場は持続的に低迷し、住宅市場は厳しくコントロールされ、債券市場も機関投資家が主体で、民間資金の投資ルートは非常に欠乏している。それによって今回の金価格の大きく下落によって金が民間資金の主な投資ターゲットとなり、現金化の利便性もこの需要をさらに刺激することとなった。
「中国のおばさん」の専門性は「ミセス・ワタナベ」に及ばず