日中経済協会
調査部長 高見澤学
今年の中央経済工作会議が12月14日から16日まで3日間にわたり北京で開催された。2016年の経済運営の総括とともに、2017年の経済政策・運営について話し合われた。今回の会議で特に注目に値するキーワードは「穏中求進(安定の中での進歩)」にあると思われる。
第13次五カ年計画(以下「13・五計画」)の1年目が間もなく終わり、来年秋に行われる中国共産党第19期全国代表大会を見据え、2017年は重要な年になることは間違いない。中国は中高速度の経済の安定成長を維持しつつ、構造改革を進めることが求められており、そのためには最大の課題である過剰生産設備の淘汰や過剰債務の削減、国有企業改革を着実に進めると同時に、新たな成長分野であるニューエコノミーを育成していかなければならない。ここに「穏中求進」の具体的な方向性が見て取れる。
こうした中で、多くの人にとって最大の関心事であった中国の来年の経済成長率について、今回の会議では具体的な数字への言及はなかった。今年の成長率は第3四半期まで前年同期比6.7%を達成してきたが、このままの数字が来年も続くとは思えない。というのも、量的拡大に基づく経済成長には限界があり、基数となる前年の経済規模が大きくなれば、増加するネットでの経済規模の大きさが同じであっても、前年との比較では小さくなるからである。今後、中国経済の二桁成長が望めないと言われる背景には、こうした数字的なトリックあるからだ。
他方、今回の会議に関する日本の報道をみると、不動産バブルの抑制に対する金融の引き締めと景気下支えのための積極的な財政政策に注目する記事やコメントが目立っている。中国政府はこれまで公共投資や減税などの財政出動を進めた結果、社会消費や生産活動は堅調に推移してきた。しかしその一方で、不動産価格が高騰するなどマネーの行き先に偏りが生じており、それが経済の安定成長を阻害する潜在的リスクともなっている。
確かに財政出動による景気の下支えは重要だが、拠出された資金が実体経済に回らず、不動産や株式など投機の分野に流れ込むと、実体経済とは乖離した形で金融が歩み始め、最終的には暴走に至る危険性が増すことになる。これをどうコントロールするかが財政・金融当局の手腕の見せ所なのだが、現下の世界的な金融経済システムの中では極めて難しいと言わざるを得ない。
そこで重要なのが構造改革である。経済成長を維持するために、今年中国は予算の前倒しによる公共投資を増やし、1~11月の固定資産投資は前年同期比8.3%の伸びを示した。ところが、そのうち民間投資は同3.1%の伸びと、国有企業に比べ圧倒的に小さい。こうした公共投資に依存する経済浮揚政策には、先進国の先行事例をみても、財政赤字の増加など何らかの副作用が伴うことを忘れてはならない。とはいえ、民間投資も含め今年の固定資産投資は1~8月の前年同期比8.1%(民間投資は同2.1%)を底に徐々に回復しつつあることも注目しておく必要がある。公共投資によって引っ張られた形で民間投資が伸び始めているとも言える構図である。
一方、国内消費をみると1~11月の社会消費品小売総額は前年同期比10.4%と、昨年に比べれば若干伸びは小さくなったものの、それでも二桁の高い伸びを示している。第三次産業の成長とともに、消費が経済成長をけん引する形が形成されつつあり、経済の構造改革は確実に進んでいると言える。
来年の具体的な経済成長率の目標については、実際には来年3月の全国人民代表大会を待たなければならないが、6.5%前後というのが大方の見方である。そして、それを担っていく両輪の一方はニューエコノミーという新たな成長分野であろう。今回の中央経済工作会議では構造改革を重点に議論が行われ、この分野についてはあまり議論の対象にはならなかったようだが、今後の中国経済の成長にはニューエコノミーの成長が欠かせない。
また今年は、英国のEUからの離脱の決定や米国大統領選でのドナルド・トランプ候補の勝利など、世界政治の場でも大方の予想とは異なった結果が生じた。こうした結果を受け、世界では保護主義の傾向が高まっている。グローバル化の是非については改めて議論する必要があるだろうが、このような動きが環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の今後の動向、更にはそれに伴う東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉への影響など、世界経済の枠組み作りに大きなインパクトを与えることは間違いないだろう。
経済は生き物である。会議で一定の方針を決めたからといって、決してその通りに行くとは限らない。欧米諸国によって作られてきた既存の世界経済の体系が大きく変わる可能性も決して否定できない。ますます影響力を強める中国経済の動向に目が離せない。
(本稿は筆者個人の意見であり、中国網や所属機関を代表するものではありません。)