過去を振り返り、間違った決定を反省
カズオ・イシグロはこれまでに7本の長篇小説と何本かの短篇小説を書いている。そのうち最初の3作品『遠い山なみの光』『浮世の画家』『日の名残り』では、主人公が過去を振り返り、自らの人生を見極めるが、時既に遅しで、悲しみを覚えるというものだ。
6年後、カズオ・イシグロは新たなスタイルを模索し、シュールレアリスティックな作品『充たされざる者』を発表した。『充たされざる者』は実験性が強すぎたためか、読者の反響はいまいちだった。カズオ・イシグロの次の作品『わたしたちが孤児だったころ』は、自らが最も特異とするパターンに回帰し、近しい環境の下で過去の物語を探すというものだった。英国の探偵が子ども時代に住んでいた上海に戻り、第2次大戦勃発直前の両親の失踪事件を調査する。調査の結果は、彼の多くの記憶を覆すこととなる。
ノーベル賞選出のコメントにあるように、カズオ・イシグロは、「感情に強く訴えかける小説を通じて、世界とつながっているという私たちの幻想の下の深渊を浮き出させた」。「記憶、時間、自己欺瞞」。カズオ・イシグロはこの主題をめぐって、さまざまなスタイルの世界を作り出した。これらの世界のいずれもが豊かな精神的な世界を持ち、人びとを夢中にさせている。
「記憶と忘却がいかに把握しにくい問題かを人びとに知ってほしい。この2つの困難という複雑な状況に人類が置かれていることを強調したい」と、カズオ・イシグロは語る。
カズオ・イシグロの受賞を発表したスウェーデン・アカデミー常任事務のサラ・ダニウスは、「カズオ・イシグロはよそ見することなく、自らに属する美的宇宙を作り出した」と語っている。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2017年10月10日