キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之(談)
第1四半期に表れた改革の成果
中国政府が公表したデータでは、2019年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比で6.4%増と明らかな回復を見せている。政府関係者やエコノミストは第1四半期が今年の景気のボトムになり、そこから緩やかに回復していくだろうと予想していたが、その第1四半期の成長率が6%を割るリスクを心配していた。仮に6%を割ってしまうと民間企業の間に先行きへの悲観論が広がり、経営者や消費者のマインドに深刻な悪影響を及ぼして民間設備投資や消費がスローダウンしてしまうリスクがあった。このため、6%以上の成長率は何としてでも達成したい最低ラインだった。
しかし、成長率引き上げのための景気刺激策が行き過ぎると現在改革を進めている地方財政改革や金融改革、国有企業改革などが全部台無しになってしまうことから、中国政府はバランスをとりつつ過度な景気刺激策をしないよう、6%を若干超えるラインを目指して政策運営をしていた。4月からの増値税引き下げの影響で3月に駆け込み生産が生じたため、6.4%という高い成長率に達したが、その特殊要因がなければ、6.2%前後に着地していたはずである。そう考えれば、第1四半期の成長率はまさに中国政府の狙い通りに着地した、というのが私の印象だ。
こうしたマクロ経済政策運営の成功要因は、昨秋の個人所得税の減税、昨年末時点で例年より早めに決定された地方債の発行枠確保、そして年明け早々の預金準備率の引き下げ、それと同時に実施された民間企業、とくに中堅・中小企業向けの融資促進策などである。加えて、自動車や大型家電の販売促進、公共サービスの給付レベルの引き上げ、公共事業の前倒し執行等を行い、さらに4月からは増値税を引き下げ、5月からは社会保障費用を削減するなど、実に様々な政策を行った。3月からはPMIも上がってきており、非常に的確なマクロ政策運営だったと思う。昨年2月から行ってきた共産党第十九回三中全会の目玉として、党の指導強化の下、国務院の政策運営を部門横断的に一体化させ、政策全体をバランスよく整合性を保つよう、各部門の政策を統一的に実施する体制の構築を目指してきた。その体制がようやく年末に整い、その成果が第1四半期に表れたというのが私の評価だ。今年の第2四半期は、3月に生じた増値税引き下げに伴う駆け込み生産の反動が出るため、成長率が6.2%くらいまで落ちるが、その後は再度ゆっくり回復する格好になると思う。以上のような見通しであるため、中国経済の今後について、私はさほど懸念してはいない。