日米貿易摩擦から学ぶべきこと
今回の中米貿易摩擦を見て、1980年代の日米貿易摩擦を連想する向きが中国国内では比較的多いようだが、その見方は少々違うと私は思う。最も大きな違いは、日米貿易摩擦の前提は日米同盟だったために日本は相当譲歩せざるを得なかったが、同盟関係にない中国は、安全保障上の配慮から米国に譲歩する必要はないという点だ。
もうひとつの大きな違いは、米国企業の受け入れ度合いだ。中国は現在多くの米国企業を受け入れ、米国企業は中国国内で様々なビジネスを展開し、巨額の利益を得ているが、当時の日本は非常に閉鎖的で、米国の企業をほとんど受け入れていなかった。このため、仮に米国企業が日本市場から排除されたとしても巨額の利益を失うリスクを心配する必要がなかった。加えて、日本から米国に輸出していたのはほぼ日本企業だったが、現在中国から米国に輸出する多くは米国企業だ。このような大きな違いがあることから、米国政府の対中制裁によって関税を払わなければいけないのは米国企業だし、仮に中国のマーケットから米国企業が排除されるようなことになる場合、米国企業は巨額の利益を失うことになる。
以上の点から明らかなように、米中摩擦はかつての日米摩擦とは事情が全く違うし、摩擦の深刻化によって生じる不利益の規模は今回のほうがはるかに大きいことから、経済制裁はそう簡単に拡大できるものではない。米中両国は同盟関係にないとはいえ、経済面でのウィンウィンの関係が強まっているため、そう簡単に互いを排除できない。この点がかつての日米貿易摩擦とは決定的に違うと、まず認識すべきだろう。
前述のように、米国の対中強硬姿勢の背後に理性的な思慮はない。相手を脅威と感じたらpower politics(力の政治)で相手を押さえつけようとする。これはかつて日本に対して行ったことと全く同じ方法だ。そのような手段に打って出る米国は、交渉において強引に自分の主張を押し通すだけだ。その点においてはかつての日米交渉の経験が参考になるだろう。米国に対して一気に譲歩してしまうと、かつてのプラザ合意およびその後の利下げや財政刺激策によるバブルの形成→崩壊のように国内経済政策に対する深刻な悪影響を引き起こすだろう。米中経済関係で言うならば、金融・為替の自由化や、国内の不動産政策といったことだろうか。こうした国内経済の安定を決定的に崩すようなファクターを米国の言いなりに動かすと大変なことになるため、国内経済の安定を保持するためにはその点に充分気を付けたほうがいい。日本のかつての失敗を反面教師にしてもらいたい。
また、日米貿易摩擦が原因で日本経済の停滞が長引いたと中国の人々は誤解をしているようだが、そうではない。1990年以降の日本経済の停滞は、日本政府自身の政策運営の失敗だ。
日本は構造改革を断行せず、高度成長期の政策運営体制である旧来の縦割り行政の枠組みをそのまま維持したほか、金融機関の体質を充分に改善するのが遅れたため、あのような問題が起きた。一方、中国は現在、構造改革を進めている。日本のような長期の経済停滞を招かないようにするため、中国がかつての日本の経験を参考にするならば、国有企業改革、地方政府債務の削減、金融改革、貧富の格差の縮小、環境改善といった重要改革を不退転の決意で進めていくことが、非常に重要だと思う。これはもう米国とは関係ない。国内政治の問題だ。
今の中国にとって一番大切なのは、経済成長率が5%を上回る高度成長時代が終焉を迎える数年後までに重要改革をある程度まで仕上げることだろう。今は米国に譲歩してでも、中国経済の長期的安定に必要な政策に特化し、大胆に改革を実行することに最大限の力を割くのが賢明だ。
世界中が注目する米中摩擦
今回のG20は、習近平主席が米中首脳会談でいかに良い結果をもたらすかがカギとなる。難しい判断が多々あるとは思うが、長期的な観点から見た国益や中国の世界に対する貢献を考え、冷静な判断でお互いの妥協点や着地点を探ってもらえれば、非常にありがたい。
6月上旬、私は欧州で行われた、G7に関するシンクタンク主催の意見交換の場に出席したが、話題の焦点はやはり米中関係だった。米中関係の行方がG7の議題を大きく左右し、中国への対応がG7の大きなテーマになるのはほぼ確実だろう。世界を今動かしているのは米中摩擦だということが、ここからも見て取れる。
「アメリカ・ファースト」をスローガンに掲げて世界のことはあまり考えていないトランプ大統領に対し、習近平主席は世界への貢献のあり方についてよく考えているはずだ。今回の米中首脳会談における習近平主席の高い見識と志に基づく大きな度量に期待したい。
人民中国インターネット版 2019年6月27日