全8章98条から成る労働契約法は、起草段階からすべての労働者と資本側(企業)の注意を引くことになった。施行の日が近づき、同法に関する論争はやむことがない。ある意味、労働契約法は利害関係に満ちた法律で、ぶつかり合う社会利益の縮図でもある。
労働契約法の起草は、母体となる労働法の制定10周年に合わせ2004年に始まった。労働法制定から10年で、中国の経済体制や企業形態、労働関係には重大な変化が生じた。同時に、労働争議も大幅に増加した。
そして、労働争議の中心となるのは契約問題だ。2005年に全国人民代表大会(全人代)常務委員会が全国で実施した労働法執行状況調査によると、中小企業と非公有制企業における労働契約の締結率は20%に満たなかった。個人経営者組織における締結率はさらに低かった。同調査はまた、60%以上の企業・事業機関が労働者と結んでいる契約は短期契約で、大多数は毎年更新、あるいは一年に数回の更新が必要なものもあった。
労働法の専門家として知られる中国人民大学の常凱教授は、労働契約法が実際には労働法を具体化させたものだと指摘する。制定のきっかけは、労働契約制度の実施状況に問題が多く、無契約、短期契約、規範に沿わない契約、契約不履行などの状況が散見されたためだ。
常教授は、労働契約法を制定するさらに深い原因として、中国の雇用関係の市場化が進んでいることを挙げた。1995年から現在に至るまで、中国経済の構造は大きな変化を遂げ、財産権に占める私有財産の割合が大きくなった。また、経営権の市場化が進み、中国には所有権と経営権が組み合わされた利益集団が形成され、利益集団はともに労働者と向き合っている。同時に、現実には労働者の権利はずっと無視されたままだった。旧体制は既に存在せず、新体制下の権利も確立されていない。こうした権利の空白は過激行為の引き金となり、大きな社会的コストを生んでいる。労働契約法はこうした問題を解決し、形式的平等を実質的平等に変えるとともに、公権力の介入を大きな特徴としている。
常教授はメディアの取材に対し、現在の状況下で労働契約法が特定の契約期限を設けない無期限契約の定着を目指せば、労働者の安定感を保証し、企業の労働関係の調和を図るのに役立つものだ。一方で、無期限契約は企業にとっては不安材料となる。
2005年12月24日、労働契約法草案が全人代常務委員会に初めて提出された。そして、06年3月20日には第1次審査を経た草案の全文が公表され、社会から意見が募られた。同年4月20日まで、インターネット、新聞雑誌、書状などで19万件余りもの意見が寄せられた。これは中国の立法史上まれなことだ。
中国EU商会(商工会議所)、北京と上海の米国商会、広州の外商投資商会など外資系企業を代表する機関が立法機関に反対意見を述べた。外資は労働者の権益を過度に保護する法律を施行すれば、労働コストの上昇を招き、中国の投資環境にマイナスの影響を与えると主張した。上海多国籍企業人的資源協会の代表は「こんな法律を施行するなら撤退する」とまで言い放った。
無期限雇用契約をめぐる争い
今年6月19日に労働契約法が可決されると、同法が企業の発展に不利だとか、中国経済にマイナスの影響を与えるといった意見が噴出した。
企業から批判が相次いだのは同法第14条。すなわち、被雇用者が勤続期間が満10年に達するか2回連続で期限付き雇用契約を結んだ場合、事業所は無期限雇用契約を結ばなければならないというものだ。
労働契約法の起草から公布に至るまでの期間、無期限雇用契約は常に争点となってきた。無期限雇用契約は労働者に安定感を与えるにはプラスだが、企業の負担を重くし、労使関係の緊張を招くため、企業の革新と発展には不利だとの意見も出た。また、企業の懸念は、労働者と無期限雇用契約を結べば、「終身従業員」を抱えることになり、企業のコストを増大させ、従業員間の競争を阻害するというものだった。
これに対し、労働法に詳しい中国人民大学の常凱教授は、「企業の懸念は誤解で、無期限雇用契約とは労働契約の主体が双方とも契約満了期限を定めていない契約を指し、それ以上の特別な待遇はない」と説明した。つまり、法律が定める契約解除条件を満たすか、従業員削減が可能な状況下では、期限付き雇用契約と同様に解除ができるという話だ。従業員削減が必要なときは削減しなければならず、無期限契約は終身雇用制を意味するものではない。
常教授はまた、「期限付き契約の終了は補償を伴うが、無期限契約の終了に補償措置はないため、企業にとってはむしろコスト削減につながる」と指摘した。さらに、「法律が企業に無期限契約の締結を進めるのは、長期的に見れば従業員と企業の双方にとって有利だからだ。無期限雇用契約は市場経済国ではどこでも採用しているもので、中国独自のものではない」と述べた。
「人民網日本語版」より 2008年1月18日