親日感情は父母の影響か?
3つ目として、過去の台湾人の親日感情は日本統治時代の「皇民化教育」を源としており、現在の台湾人の親日感情は、その父母の影響を受けたもの、という考えである。
だが、60歳以下の台湾人は戦後生まれで、日本の教育を受けておらず、日本による植民地支配の経験もないことを理解しておかなければならない。逆に、日本軍による侵略や日中戦争における血なまぐさい事件が強調された反日教育を受け、日本に対するマイナスのイメージを植え付けられて育ったはずである。このような背景において、今の台湾の若者の日本に対するイメージが父母からのものが大きいのか、学校教育によるものが大きいのか、はっきりしないところがある。
2010年3月に公開された「台湾民衆の対日観の研究」の調査において、「日本に親近感を持っている」と答えた人は62%、「親近感を持っていない」と答えたのは13%であった。「日本に親近感を持っている」と答えた人の中で、若者と高学歴者の占める割合が顕著に多かった。65~80歳の、日本の植民地支配を受けた経験がある回答者の中で「日本に親近感を持っている」と答えた人は58%と6割に満たないが、20~29歳の回答者は72%と7割を超えている。この数字から、今の台湾人の対日観が、植民地支配時代に生きた父母からの影響でないことがよく分かる。またこの調査によると、台湾人の日本に対する認識は、「家族、親戚から得た知識」によるものが6%で、「学校教育によるもの」と答えたのは1%にも満たない結果になっている。
今の台湾人の親日感情や「親日」「媚日」と呼ばれる行為が、当時の皇民化教育の影響から来るものだとするならば、植民地支配時代に台湾におらず戦後に渡台した外省人らの方が、本省人よりも日本人タレントに熱狂する人が多い訳を説明できなくなってしまう。
こう見ると、日本による植民地支配時代の経験と、今の台湾人の対日感情を絶対的なものとして関連付けるのは間違っていることが分かる。日本の皇民化教育によって台湾人の「中華民族精神」が無くなったとされる考えは、まったくもってナンセンスである。だが、台湾史上、日本による統治が行われていた時代があり、また、台湾人が日本に対し友好的な態度を示していることは確かであることを認めなければならない。それを、当時の皇民化教育の影響によるものだと決めつけてしまうと、外省人を含む今の台湾人がどのように親日感情を持ちえたのか理解に苦しむことになる。