周牧之:アップルのiTunesのような音楽購入サイトの出現は、消費者に新しい音楽視聴モデルを提供しましたが、一方でこれがレコード会社(音楽ソフト制作会社)の利益を大幅に圧迫しました。
谷口元:音楽がなくなることはないでしょうが、音楽産業は今、非常に厳しい状況に立たされています。最近は大ヒット歌手や楽曲が出にくくなっていますが、その原因の一つとして、音楽産業自体が巨額を投資してスターを育成することが困難になっているということがあります。
周牧之:日本市場では米国音楽のシェア減少と引き換えに、韓国音楽の売れ行きが伸びています。
谷口元:日本の音楽市場に占める邦楽のシェアは80%です。過去には欧米ミュージックが最高で30%近くを占めた時期もありましたが、現在では10%前後に留まっています。これに対して、最近は韓国のK-POPが日本で大ブレークしています。日本で制作された韓国歌手のCDを含めれば、K-POPが日本の音楽市場に占める割合は15%前後に達するでしょう。
周牧之:つまり、現在の日本の音楽市場はアジア志向に傾いているということです。K-POPが日本でここまで成功を収めた理由は何でしょう?
谷口元:まず、韓国は金大中(キム・デジュン)時代から、国策としての音楽、映画、テレビの海外輸出政策が確立していたことが挙げられます。国家が先頭に立って音楽産業の輸出をサポートし、日本の文化や音楽市場を熱心に研究しました。また、これとは別に、韓国の音楽市場は日本の30分の1しかなく、コストと労力を費やしてスターを育成しても、国内ではコスト回収が難しいという現状があります。このため、韓国の歌手は懸命に日本語やダンスをマスターし、日本市場進出の戦略をしっかりと練ったわけです。
周牧之:“韓流”を受け入れた日本の音楽市場ならば、中国音楽も参入の余地がありそうですが、現状を見る限り日本と中国の市場における相互作用はまだ微々たるものです。
谷口元:その理由は、第一に、そもそも両国の国内市場が大きく、コストと労力をつぎ込んで不確定な海外市場を研究し進出を図るよりも、国内で努力するほうがリターンの可能性が高く確実だということがあります。第二に、音楽における国際ビジネス戦略とそれをプロデュースする人材がいないということがあると思います。