――国際社会からは、「一帯一路」は中国の「債務のわな」や「新植民地主義」ではないかとの声も聞かれます。これについてどう思いますか。
進藤 「債務のわな」や「新植民地主義」論は、現実の国際感覚の無知であり情報操作だと思います。中国に対する見方のゆがみを表していると思います。特に港湾施設に関してはそうした意見が多いですね。スリランカのハンバントタ港やパキスタンのグワダル港、ギリシャのピレウス港を中心に、中国企業の巨大港湾企業が進出していますが、それが独占的な権益を確保する新植民地主義ではないかというのが彼らの主張です。
しかし17年におけるスリランカの対外債務総額は518億㌦で、対中債務額はその10・6%の55億㌦に過ぎません。ハンバントタ港の建設債務は11億㌦で中国が経営権を取得するものとされています。このような具体的な数字を示さず、あたかも中国が途上国に借金を負わせ、その借金をかたに領土を取っていくのだというような議論を展開するのはいかがなものでしょうか。パキスタンやギリシャでも同じです。債務総額や港湾債務の割合などの「現実」をフェアに議論せず、「中国は四方に爪を伸ばしてユーラシア大陸を手にし、世界を支配しようとしている」という「中国の赤い竜の爪論」のごとき言説ばかり論じるのはおかしい。まして、日本の中国研究者が言う、一帯一路は現世で実現できない「星座」のようなものだという「星座」論など、論外ですね。
――「一帯一路」における両国の具体的協力にはどのようなものがあるでしょうか。
進藤 日本の経済界、産業界は東アジアだけではなく、ユーラシア大陸ではカザフスタン、スリランカ、パキスタンなどの周辺諸国にも積極的に展開をしています。先日私は大連で「一帯一路」研究専門の教授から、カザフスタンでは丸紅とカザフスタン政府と中国が、エネルギー開発の共同事業を展開していると聞きました。また、エネルギーインフラ企業日本ナンバー2の日揮は、巨大な天然ガス(LNG)基地をロシアのヤマル地区につくっています。冬は零下50度になるような現地に日揮の技術者やロシアとフランスの業者が入り、産出したLNGを、北極海から釧路を経て大連まで運ぶルートができました。このルートを中国政府は18年1月に「氷上シルクロード」と正式に呼びました。このような現実は日本ではあまり知られていないでしょう。