さて、ここまで、トヨタとそれに類するようなグローバル企業の問題を考えてきましたが、これをふまえて、中国内でのトヨタの今後の展開はどのようになるでしょうか。単純な今回の問題による信頼の失墜とそれによる販売数の低下については別にして、米国とは異なった中国特有の問題もでてくるような気がします。一般的に模造品、知財問題で何かと話題になる中国というマーケットは、企業からすれば情報コントロールがしにくいところでもありますね。ですから、トヨタが今後このような「免疫力」的アプローチへと舵取りをしていくならば、ユーザー以外に、合弁提携企業と政府に対しても「免疫力」的アプローチの理解をもとめなければならないでしょう。例えば、これまで重要とみなされない不具合(本当に重要でない欠陥)について、リコールや修理の対象としなかったものまで含めて範囲を拡大するとすれば、それを合弁提携企業や政府に説明することは、他国のマーケットでのそれよりもさらなるコスト増となるはずです。もちろん、トヨタにとって、他のグローバル企業と同じく中国は最も重要な市場のひとつですから、中国市場はコスト増をカバーするだけの重要性をもっているわけですが、他国での「免疫力」的アプローチへの転換よりも、その実施が遅れる可能性があります。
トヨタにとって最悪なシナリオとしては、こうした「免疫力」的アプローチへの転換の遅れによって、今回の米国マーケットと同じような「reputation gap problem」を再度中国でうみだしてしまうことです。すでに、トヨタは対応を初めているかもしれませんが、中国内でのアプローチ転換がいかに早くできるかが、すなわち、合弁提携企業と政府からアプローチ転換について合意をもらう作業がいかに早く完了できるかが鍵となろうかと思います。
絶対的最高品質のトヨタから相対的最高品質のトヨタへ。マーケットのイメージを変えることは簡単では無いと思いますが、中国では逆に他国と異なり合弁提携企業と政府がイメージ転換の「味方」になってくれるかもしれません。僕は、むしろこうして他国よりも利害関係者の多い中国マーケットを先に制して、グローバル全社として戦略転換が完了し、欧米先進国での信頼をとりもどしていくと、非常に興味深いレアな企業成功例になるのではないかなと思います。
ハシレ、ハシレ、トヨタ!
(中川幸司 アジア経営戦略研究所上席コンサルティング研究員)
「チャイナネット」2010年3月1日