自動車産業や電子産業については、こうした「工業化プロセス」が、時間の流れにそって無理がないかたちでおこったといえます。戦後の低生産コストで始まり、中小企業が自動車・電子技術を次第に獲得し、いくつかの企業が系列化を達成し、日本の工業化プロセス技術が増加していったということになります。日本で低コストに製造し、日本にベース技術が蓄積し、生産設備を持つ大企業が中小企業の系列化を整えていく、ということが時間の流れにさからわず無理なくおこったこととなります。
話をもどして、現代の日本は、「環境技術」について関連する企業が有しているのは「ベース技術」です。これをもし日本国内で工業化して複雑なコンポーネントを組み合わせた製品まで完成させるには、他の低賃金で労働者を雇用し生産できる国と比べて製造コストがかかります(Production Cost)。国内製造でなければ、製造設備を持つ企業(大企業)の選択肢としては、海外製造をおこなう必要があります。しかしそのためには、系列化もされていないベース技術をもった日本の中小企業を海外に移転させるための資金援助や、そうした中小企業を買収するか、または自社内で技術開発をするかといった選択(内部化:Internalization)をとるしかありません。さらに、海外に技術と生産拠点を設けることが可能になったとしても、系列化の無い海外での製造では、意図されない技術流出(Knowledge Spillover)を防ぐためのコストもかかります。製造コストではなく資金援助or買収手数料or技術流出対策費といったこうした様々な取引コスト(Transaction Cost)がかかってしまうわけです。このように、生産設備を潜在的に有する資源を持つ日本の大企業が「製品」にするための「工業化」プロセスにおいて、日本国内での製造では「製造コスト」が諸外国企業(国内技術開発・国内工業化・国内生産する場合)にくらべて相対的に高く、また、海外製造では「取引コスト」が諸外国企業にくらべて相対的に高くなってしまうわけです。