文学から中国を感じる

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発信時間: 2010-06-24 11:08:17 | チャイナネット | 編集者にメールを送る

葉 紅=文・写真提供

 私は学生時代に中国の大学で日本語を学び、日本の大学で日本文学を学びました。早稲田大学大学院博士課程在籍中に結婚し、その後、日本で子育てをしながら仕事をしてきました。現在、日本の大学で中国語の講師を務める傍ら、市民と共に原文で中国の小説を読む活動をし、作品の翻訳もしています。

個々の熱意に支えられた活動

日本では、中国語学習は一貫して高い人気があります。学生から、社会人、主婦、リタイアした方、子育てが一段落した方など、様々な人々が学んでいます。多くの方々は中国関係の仕事をしているというわけではないのに、実に熱心に学んでいます。また、中国での留学経験の有無にかかわらずレベルが高い。一方、その語学力の保持にみな苦心していることも事実です。教室で学ぶことはもちろん大事ですが、教室の外での実践がより重要になってきます。毎年卒業生を社会に送り出して、まもなく聞こえてくるのは、「先生、学んだものを使う場が無く、どんどん忘れてしまいそうで…」という声でした。何とかならないものかといつも思っていました。

今年4月の例会に出席した翻訳会のメンバーたち。中央大学のキャンパスにて

あるとき、「どこかに中国語の原書を読むようなところはないかな? 作品の一字一句をひたすら訳すのではなく、各自で事前に作品を読み通し、集まって疑問点を出し合い、気づいたことを話すような場があれば、ぜひ行きたいけれど」という相談を受けました。これだ、と思いました。そして、どこかにないかと探すのではなく、自分たちで作るしかないという思いに至りました。これが現在も続いている市民と中国文学を読む会を始めるきっかけでした。

この会に参加する条件は、「読みたい」という気持ちを持っていることです。どの国の文学であろうと、読み手が感じ取ることが何より大事だと私は思っているので、会では、私はとくにレクチャーをするようなことをせず、それぞれの読み手にまかせ、分かりにくい表現などだけ、ヒントや例文を示し、理解の手助けをしています。それも最小限にとどめるよう心がけています。

現在まで、畢淑敏の数編の掌編小説をはじめとして、残雪の「家庭秘密」、陳染の「残痕」、趙本夫の「靴匠和市長」、裘山山の「道聴途説」、黎翠華の「洗衣店」、阿成の「俄羅斯女人」などを読んできました。ちりも積もれば何とやらの言葉の通り、こうして改めて書き出すと、沢山の作品に接してきたなと、また感慨もひとしきりです。

この会は月一度の集まりで、地域の公共施設を借りたり、町の喫茶店を利用したりして続けてきました。場所の確保に時折悩まされますが、幸い読みたいという思いのほうが強く、今日まで続けてきました。

一方、長く続けなければ、語学力の保持にならないということは私自身が一番良くわかっていますので、この会への参加は無料にしています。月謝を払っているから、頑張ろうというのではなく、語学をライフワークの一つとして考えてほしいからです。そういうわけで、仕事や家庭の事情等で、一度離れても何度でも戻ってこられるような会を心がけています。

東京都武蔵野市ヒューマン・ネットワークにて。毎月1回の読書会。この日はあいにく欠席者が多く、数少ないメンバーで「これでは老人会と間違われはしないか」と冗談を言いながらも、着々と作品を読み進めていった」(左から2人目は筆者)

私は留学時代から、日本の人々の沢山の善意に支えられ、奨学金も頂きました。日本の文化、社会に育てられて今日に至ったと常日頃思っています。中国の文学を紹介する形で日本の人々に還元できることは、私からのささやかな恩返しです。同時にそれを続けてきたことに大きな達成感も味わっています。

雑誌刊行への思い  

さらに数年前に中国現代文学翻訳会(lishan@tamacc.chuo-u.ac.jp)にメンバーとして加わるチャンスに恵まれました。

同会は中国の現代小説、とりわけ「八十年代以降」の文学作品を日本の読者に提供すべく、大学等で教鞭をとる教員たち、中国の文化、歴史、文学など各方面のスペシャリストたちが一堂に会し、作品を検討し翻訳作業を経て、翻訳同人誌を年二冊刊行しています。

メンバーの全員が仕事の傍ら、この翻訳活動に携わり、その上、個々でその出版費用を負担しています。活字離れが叫ばれて久しく、読む媒体も多種多様に変化した昨今、はたして読者の獲得が上手くいくでしょうか。協賛してくれる出版社が見つかるでしょうか。当初はまさに前途多難の様相を呈していました。

翻訳にあたって、中国の作家たちにまず了解および賛同をいただいています。会の主旨に共鳴し、快諾してくれていることは何より心強いことです。そして、みんなの努力を粋に感じ、ひつじ書房(http://www.hituzi.co.jp)が出版を引き受けてくれました。二〇〇八年の春に創刊号が産声をあげ、これまで残雪、張小波、史鉄生、畢飛宇、徐坤、李馮、阿成など現代の中国を代表する作家たちの二十数編の作品を訳出しています。

私はハルビン出身の作家阿成の短編小説「烏鴉」を訳し、『中国現代文学』2号に載せてもらいました。近々発行予定の5号に掲載される陳丹燕の短編の「X在外灘」の翻訳も出版間近です。母語ではない日本語に訳す作業は大きな努力のいることで、座礁してしまった船のようににっちもさっちもいかなくなるときも多々ありましたが、より良い翻訳作品を読者に届けたいという気持ちは皆さんと共通しています。周りからの叱咤激励を糧に、今後も同人と切磋琢磨してよりレベルの高い翻訳を目指していきます。

『中国現代文学』は日々変化していく中国を質の高い翻訳で、リアルタイムで日本の読者の皆さんに届けています。多くの日本の読者に読んでもらい、同時代を生きる中国の人々の思いを理解するために役立ててもらい、少しでもそれらの思いを共有できればと、メンバーの一人として願っております。さらに、より多くの読者が購読してくれることは同時に私たちの活動への最大のサポートにもなります。末永く愛読される雑誌であり続けられるよう同人と精進していきたいと思っています。

この原稿を書いている今は、桜が満開の季節を迎えています。今年は寒い日も多かったので、開花の遅れが心配されましたが、ほぼ例年通り、各地から花便りが届きました。四月は新たなスタートをきる季節でもあり、「百尺竿頭一歩を進む」の気持ちで参りたいと思います。

 人民中国インターネット版 2010年6月24日

 

 

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