相手が強引だ、挑発的だとして、世界中で喧伝これ努めたとしても、火付けの事実は事実であり、それが相手の疑念とその後の事態を生んだことを認識しなければならない。
丹羽氏の名誉が回復されたとは思えないから、一言加えたい。そもそも大使は任地国において、自分の国と任地国との良好な関係を維持発展させるのが最大任務である。
任地国の事情を検討し、任地国が、大使の自国の行動について疑念や不信感を高めるという事態を懸念すれば、任地国に対して単に自国の主張をおうむ返しするのではなく、自国に対して真剣真摯な忠言をする。
まさに丹羽氏は正しく立派な外交官としての役割を果たされた。それをわが国の利害に反するというような狭隘かつ悪しき官僚主義的視点によって更迭してしまったのは外交の汚点である。
もちろん当時は民主党政権であった。民主党政権のせいでドジを踏んだのであれば、今回は戦後60余年の長期政権を担ってきた自民党なのだから、政府・外交当局としては、立派に舵を切り直せるはずであろう。
1972年の日中国交回復を鑑とすれば、棚上げに戻しても何ら恥ずるべきことはない。棚上げは、後生によい知恵が出るまで、ということであった。いま、容易に知恵がでないのであれば、当時に戻すのが筋道である。
わが国の外交当局は、かねてより、その誇り高き姿勢が伝統だと聞く。国を代表してさまざまの交渉に当たるのだから、外交官が毅然として、誇り高きことは素晴らしい職業倫理である。