皇室と養蚕のこのような伝承関係に鑑み、皇后は蚕についての和歌を数多く詠んでいる。どの歌も皇后の心情と志が託されており、養蚕の歴史に触れ、伝統を受け継ぎ未来の発展の道を開こうという心情を歌い上げている。わずかではあるが、ここに四首紹介しよう。
真夜こめて秋蚕は繭をつくるらしただかすかなる音のきこゆる
音ややにかすかになりて繭の中のしじまは深く闇にまさらむ
籠る蚕のなほも光に焦がるるごと終の糸かけぬたたずまひあり
くろく熟れし桑の実われのてに置きて疎開の日日を君は語らす
「シルクロード」の経験は私たちに次のような示唆を与えてくれる。激しく移り変わる世の中で、砂金を振るうがごとく幾たびも選り分けられてなお時空を貫いて伝えられるのは、開放的で、互恵的で、寛容かつ進取の気概に満ちた文化だけなのである。
(王敏・法政大学国際日本学研究所教授 )
「北京週報日本語版」2016年1月25日