中米関係に相当ダメージ
最近、ベストセラーにもなる『米中もし戦わば』(ピーター・ナウァロ著)。日本防衛省防衛研究所の飯田将史・主任研究官が同書を解説した
――トランプ政権で新設される国家通商会議の議長にはピーター・ナバロ氏が就きます。ナバロ氏は米国の経済問題の多くは中国に起因するとして、著書「中国による死」という本も書いています。また、通商代表部(USTR)代表に就くロバート・ライトハイザー氏は国際貿易・訴訟法を専門とし、中国を相手どったダンピング訴訟を手がけた人間です。「対中国強硬」人事のようです。
トランプ政権の中に幾人もタカ派がいて、これまで幾度も中国脅威論を提起してきた人物が入っていることに私も気が付きました。
おそらく彼らは、米国だけが強大かつ世界一であるべきであり、経済でも国際的影響力においても、他国が米国のレベルに近づくと気分を害するのでしょう。
新政権メンバーのこれまでの発言を見る限り、中米関係は今後相当なダメージを受けるでしょう。圧力のかなりの部分はホワイトハウス内部からくるとみています。 しかし中国には「青山は遮りおおせず、畢竟東に流れゆく」という言葉があります。平和的にことを解決していくという大きな流れは変わりません。大国間の関係は数人の好悪により決定されるものではなく、大国間の利益を対比・比較し、バランスと駆け引きによって緊張が収まるように考えていくべきです。
――トランプ氏は大統領選に勝利した昨年12月、中華民国(台湾)の蔡英文と電話会談をしました。その後、ツイッターに「The President of Taiwan(台湾の総統)」が電話をかけてきた、ありがとう」とつぶやいたことが話題を呼びました。「一つの中国」原則を見直す可能性も示唆しています。
私は、これはトランプ氏が意図的に行なったものであり、蔡英文が偶然にも電話をかけてきたといった話では絶対にないと思います。米次期大統領と台湾地区の指導者が37年ぶりに行なった電話会談です。
台湾問題は中米関係のレッドラインで、対応を間違えば両国に大きな痛手となります。そうと知りながらトランプ氏があえてそれを行なったのは、彼は中国のボトムラインを探っていたのではないかと察します。彼は今後、中国と政治・経済交渉を行なう上での切り札を増やそうとしたのかもしれません。ビジネスマンとしてはこれも交渉技術の一つでしょう。
しかし私は、そのような方法は賢いとは思いません。これは中米関係に覆いかぶさる影なのです。
アメリカの新国務長官レックス・ティラーソン(右)とロシアのプーチン大統領(左)が親交深いだと評価される
――トランプ氏はエクソン・モービル会長兼CEOのレックス・ティラーソン氏を国務長官に指名しています。同社はロシアとの関係が深いことでも知られています。ティラーソン氏の起用はロシアを介した「中国牽制」という見方がもっぱらです。
ティラーソン氏とロシアの関係は非常に密接で、中国とも多くの交際があります。しかし大国間の交際は国際利益、戦略的平衡によって決定されるもので、個人的傾向も影響するかもしれませんが、決定的な作用を及ぼすことはありません。
また、中ロ間の戦略的協力関係は近年とても順調に発展しており、十分に緊密です。しかし、米国とロシアにはとても根の深い対立があります。大国間にはいつだって協力もあれば対立もある。中米関係もそれは同様です。