上海に住むコレクターの鄭健強には、かなえたい望みがある。「バレエの女神」として崇める、『白毛女』の主人公「喜児」(シーアル)を演じた二人目の日本人、森下洋子に、1971年の公演プログラムをプレゼントすることだ。この年、松山バレエ団の中心的役者だった森下洋子は、初めて中国の舞台に上がり、初代の松山樹子(後に義母となる)を継いで「喜児」を演じた。
松山バレエ団は今年、第15回目の訪中で新「白毛女」の公演を行う。森下洋子の古くからの友人である尹建平と辛麗麗も、この公演を今か今かと心待ちにしている。彼らの間には縁があり、物語があり、交流によって少しずつ築いてきた厚い友情がある。
松山バレエ団は、「白毛女」の初公演から62年、中国のことをバレエという爪先の芸術によって世界に伝えてきた。この中日の「バレエ外交」は、中国側の大ファンである鄭健強と尹建平、辛麗麗の3人によっても、生き生きとした注釈を与えられている。
歴史を物語るプログラム
バレエを愛し、バレエをよく知る鄭健強は、松山バレエ団に対してとりわけ深い愛着を抱いている。
二代のバレリーナが、一作のバレエを演じた。松山バレエ団の公演に関する分厚い資料のコレクションを開きながら、鄭健強は一つひとつを丁寧に説明してくれた。1958年の訪中初公演のプログラム、『解放日報』や『新民晩報』などのバレエ団の公演の盛况を伝える新聞の切り抜き、さらに1964年や1971年、1978年、1984年などの複数の訪中公演のプログラム。もう黄色くなったこれらの古い資料からは、松山バレエ団に対する鄭建強の熱意が伝わってくる。中日民間友好の歴史を裏付ける証拠でもある。
鄭健強は、松山バレエ団の公演を3度見に行ったことがある。一番忘れられないのは、2011年に上海大寧劇院で見た『白毛女』だ。「あの時は、私を含む多くの観衆が感動して涙を流した。彼らの情熱は観衆の心を打ち、過去がよみがえったかのような感覚を与えた。私をさらに感動させたのが森下洋子だった。63歳になった彼女はまだ踊っていた。芸術に対する飽くなき追求の精神と中国文化に対する理解と熱愛に感動した」
松山バレエ団は5月23日、上海大劇院で『白毛女』を上演する。鄭健強さんは、森下洋子に1971年の中国公演のプログラムを記念に贈りたいと考えている。「芸術は相互に交流し、相互に吸収し合うもの。彼らがもっと公演に来てくれることを願っている」