麗澤大学特任教授 三潴 正道
「前に公孫鞅の話をしたよね」
「アッ、法家の人ね。秦の王様に自分を売り込んだ…」
「そう、その公孫鞅の書いた『商君書』という本には、民は禽獣の如し、って書いてある」
「それってあんまりだわ」
「だから、厳しく律するべし」
「たまったもんじゃないわね」
「法家の代表的な人物の一人に李斯がいる」
「韓非子は聞いたことあるけど、李斯って誰?」
「秦の始皇帝を支えた大宰相だよ」
「へえー。でもその人が法家の代表的な人物ってことは…」
「もうわかっちゃったんだね。そう、秦の政治は厳罰主義」
「フーッ、庶民も楽じゃないわよね。また、“苛政は虎よりも猛し”ね」
「その通り。“孟姜女”って知ってるかい?」
「知ってる!有吉佐和子さんの本!」
「違うよ、中国の民間に伝わるお話だよ」
「えっ、そんなはずは…。ほらっ、『孟姜女考』ってあるわよ」
「あーそうか。それって孟姜女の伝説を取り上げたんだよ」
「そうなんだ。中国では有名なお話なの?」
「有名どころか、誰でも知ってるよ」
「どんな話?」
「始皇帝の時代、新婚三日目に亭主が万里の長城建設の苦役に駆り出されちゃった」
「ひどーい!」
「北方の辺境だから冬は極寒だ」
「聞いただけで震えがくるわ」
「そこで孟姜女ははるばる亭主に綿入れを届けに行った」
「いい奥さんね」
「でも探しても見つからない。聞くと、病気で死んでしまっていた」
「まあ、可哀想!」
「孟姜女は悲しみのあまり、長城の前で泣き続けた」
「……」
「そしたら、目の前の壁が崩れて、夫の白骨が現れたんだ」
「孟姜女の気持ちが通じたのね。泣けてくるわ」
「孟姜女は夫の骨を葬った後、海に身を投げて死んだんだよ」
「ひどい話ね。虐げられた民衆の気持ちが凝縮されているわね」
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2017年6月2日