例えば「貴州省道真県・雷山県住民参加型総合貧困対策モデルプロジェクト」においては、発展著しい中国においても、なお貧困問題の存在していた同省において、対象サイトである道真県はコーラオ族、土家族などが、また雷山県は苗族などが多く居住する地域であり、民族の伝統を守りつつ生活しているが、人と家畜の生活圏が分離されていない、手洗いの習慣がないなど、衛生面で問題があった(例えば、小学生の寄生虫感染率は、道真県で53.8%、雷山県に至っては74.4%にも達し、住民健診を受診したことのある女性もほとんどいない状態であった)。こうした状況に対し、本プロジェクトは、家庭保健の観点をメインとしつつ、出稼ぎ収入に頼っている住民の生活を向上させる様々な取り組みを行い、「総合貧困対策モデル」を示し、そのモデルをお手本にして、他の地域が生活向上に取り組んでいくことを意図したものである。上記2つの県でそれぞれのモデルができ、政府がこれを貴州省内に広めていくことを宣言したことにより、プロジェクトの大きな目的が達成された。
本プロジェクト実施に際しては、国家人口・計画生育委員会をはじめ、地方政府の様々な部門の参画に加え、日本人専門家からも知見が提供され、更には「参加型開発」、すなわち、住民の意見を聞きながら活動内容を決め、住民たちの創意工夫を尊重し住民主体で進めていくアプローチを着実に進めることで成果を上げることができた。
また貧困地域のインフラ整備についても、JICAとしては円借款プロジェクト「貴州省環境整備・人材育成事業」を実施した。
本事業は直接貧困削減をターゲットにしたというよりは社会環境整備を主眼とするものであったが、上記事業と同じく貴州省において、中央政府の定める国家級貧困県12県を対象地域するものであった。
これらの農村地域においては、燃料獲得のための森林の過剰伐採に土壌条件があいまって、水源涵養機能の低下、深刻な土壌流出をもたらし、洪水被害が拡大していたほか、トイレが未整備で、雨季には住居周辺の生活道の衛生状態が劣悪になり、加えて飲用水施設も未整備のため、蚊やハエ、あるいは汚染地下水を媒介とした感染症罹患の可能性も高い状況がみられた。その一方で感染症に罹患した場合、医療設備が老朽化・陳腐化しており、事実上適切な医療サービスを享受できない状況が進んでいた。教育面でも、本事業対象地域においては、高等学校施設の受入能力不足により高級中学への進学率が全国平均は63%に対し37%と低水準にとどまっており、地域の環境と社会の持続可能な発展を担う人材を供給するため、高等学校施設の整備を行う必要があった。
こうした状況を踏まえ、本事業では、貴州省人民政府、特に扶貧弁公室が主体となって、対象12県の農村部および地方都市部において、1)メタンガス活用施設、廃棄物処理施設整備および植林等の環境対策、2)生活道・飲用水施設・医療施設整備等の衛生対策、3)高等学校施設整備を行うことにより、事業対象地域における劣悪な環境・衛生状態の改善および人材育成を図るべく実施されたが、その実施に際し日本の円借款がこれをサポート、同地域の環境と社会の持続可能な発展に寄与した。