以上はいわば伝統的なアプローチにおける中国の貧困削減にかかる取り組みの事例であり、かつそうした中国側の活動のごく一部ではあるが日本が協力でき成果を上げられた点においても意義が大きいものと考えるが、こうした伝統的なアプローチに加え、中国独自の成果として、IT技術を活用した貧困削減アプローチであると考えている。
貧困削減の鍵となるのは、就業であり、貧困層が労働市場に如何にアクセスできるかが効率的かつ持続可能な貧困削減実現の鍵となる。Eコマースや社会サービスはそれを支える要素となりうる。
この観点から中国の貧困削減の近年の状況を見てみると、例えば農村における淘宝網を活用した淘宝村の展開などは、各地の良質な特産品等を発掘、農民の所得向上に貢献してきている。こうしたネット上のプラットフォームや農村までカバーする物流などの新しいスタイルのインフラ・サービスは片やビジネス、片や貧困削減に新しいチャンスをもたらし、未来に向け大きなポテンシャルを秘めていると思われる。
加えてこうしたビジネスの隆盛が都会に出た若者の帰郷創業の機会をももたらすことにより、雇用創出と所得向上の間の非常に生産的な循環をもたらしてくれる。
こうしたネット上の新たな試みも、実物経済、特に農村物流の支えなしでは実質的な成果を期待することは難しいが、物流についても、中国においては従来の問題、特にコスト問題──交通の便がよくないこと、及び出稼ぎや農業労働のために受取人不在が多くタイムリーに配達できないこと、などに起因する──に対処すべく、農村集配センターを機能的に配置することにより著しく改善し、農村でも利益を出せる仕組みを構築するなどのイノベーション事例がみられ、ネット上での貧困削減にかかる取り組みを実物経済で支える動きが大きな進展を見せていると聞いている。こうした物流の動向は中長期的には貧困地域を市場に組み込むことにより貧困削減に大いに貢献するものと考える。