ある兵士の前の捕虜の中に、命を守ろうと抗う妊婦がいた。自分を引き出して強姦しようとする兵士を彼女は必死に叩き、命がけで抵抗した。彼女を助けようとする人はいなかった。この兵士は最後に彼女を殺し、銃剣で腹を裂き、彼女の腸を出して、まだ動いている胎児を取り出してみせた。
このような一幕はこの書の中では例外ではない。
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「兵士たちが赤子を銃剣で刺し殺し、生きたまま熱湯のなかに投じたりしたのを知る人は少ない」と永富は言った。「兵士たちは12歳から80歳までの女性を集団強姦し、性的要求に役立たなくなると殺した。私は首を斬り、餓死させ、焼き、生き埋めにした。私が手を下して死んだ人の数は200人を越える。私はまるで野獣となり、このような恐ろしいことをしてしまった。私がやったことを説明する言葉はない。まことに私は鬼だった」
これはかつての日本の兵士であった永富博道が語った実話である。
アイリス・チャンが『ザ・レイプ・オブ・南京』を書いたのは彼女がまだ二十代の時だった。人生の最良の年月を南京大虐殺の血なまぐさい歴史とともに過ごすにはどれほどの努力が必要だったかは想像に難くない。首を斬り、生きたまま焼き、生き埋めにし、肥溜めで溺れさせ、心臓を取り出し、死体を分解するなどの行為の数々を彼女は一つひとつ書き出した。
書籍の出版後は、日本の右翼勢力の報復といやがらせにもあった。脅迫の手紙や電話を受けることはしょっちゅうで、電話番号を何度も変え、夫や子どもの情報がもれるのを防がなければならなかった。彼女は友人に、恐怖の中で暮らし続けていると語ったことがある。その後、彼女はうつ病にかかった。2004年、自らの車の中で拳銃自殺をすることになった。36歳だった。