▽「それはうちの管轄ではない」
日本ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染者が最も多く出た。このクルーズ船は日本籍ではなく英国籍で、経営者は米国人。「旗国管轄原則」に従い、船舶内の事項は船主「本国の事項」とされる。外国の政府当局の許可なしに関与できないのだ。そのため日本政府はクルーズ船の乗客の下船を許可しないことはできるが、船内の乗客に強制措置をとることはできない。「環球時報」の記者が在日本中国大使館の職員から聞いた話によると、救助を求めてきた香港籍の乗客に連絡を取った際、様々な難題にぶつかり、日本側と何度も交渉の末、ようやく必要な薬をクルーズ船に届けることができたという。
安倍政権は、観光業への深刻な影響、2020年の東京五輪への影響、人道主義に対する世界的なイメージ、国際社会の信頼喪失などを考慮し、紆余曲折を経てようやく乗員・乗客を分散して横浜で下船させる決断をした。ただ、人身の自由が制限され、人権が侵害されるとの懸念から乗客・乗員に対して専用車や集団検査などを強制しなかった。その結果、下船した日本人はタクシーやバスで帰宅し、帰宅後に陽性と診断された人もいる。加藤教授は「これが日本の官僚制に立ちはだかる『法律の壁』」と指摘。この問題を解決する議論には時間がかかるため、その過程で損失や新たな犠牲が出る。「日刊現代」はクルーズ船での新型コロナウイルスによる死者を「失政の犠牲者」と呼び、各国の世論も日本政府の対応を批判した。
日本の官僚制に立ちはだかる様々な「壁」は今になって出現したものではない。こうした「法律の壁」はかつて日本政府に教訓を残した。1995年1月17日、阪神大震災の発生後、日本の法律では、地方の消防などの部署が集めた災害情報は国土庁を介して首相官邸に送られることになっていた。こうした情報伝達の遅れから、首相は一般市民と同じようにテレビを通じて被災状況を知るというありさまだった。米紙「ワシントンポスト」は日本での感染について論じ、2011年の福島での原子力発電所事故についても「人為的な災難」だったとし、日本の官僚主義の集団的概念は、組織の利益が公共の安全を守るという最も大事な職責よりも優先される仕組みになっていると言及した。
「環球時報」の記者は阪神大震災や2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨を日本で経験し、第一線で取材してきた。表面的には災害が起きるたびに日本政府および各地の地方自治体は「対策本部」を立ち上げ、各部署の責任者が中心となって連携し合っているように見えるが、緊迫した「臨戦状態」の裏側といえば、日本の緊急対策は気持ちばかりで対応が追い付かない状況が数々見られた。阪神大震災発生後、記者は東京から新幹線で大阪まで行き、神戸に向かおうとしたが公共の交通手段はなく、数十キロの道のりを歩くほかなかった。途上、秩序は保たれ、市民は救助活動を展開し、無料でもらえる新しい下着や本、食料品などの物資が入った段ボールが道脇に置かれていた。神戸では、暴力団組織の山口組が本部前で市民に日常生活用品を配っていた。自衛隊に救援に来てほしいという市民の声に対し、当時の村山首相は「自衛隊を派遣することはできない」と発言。その際ある寺院を通りかかると、身元不明の白い棺が並んでいるのを記者は目にした。その寺の住職は「自治体に遺体引き取りの知らせを出してほしいとお願いしたが、『それはうちの管轄ではない』と断られた」と話した。
東日本大震災後に記者が新潟県を取材した際も、県庁内で地元住民と「その問題はうちの担当ではない」という職員が言い争う光景を目撃した。西日本豪雨でも被災後の補助などの問題をめぐって地方自治体の各部署で意見が対立し、多くの被災者が帰る場所がないという状況を招いた。こうした状況に日本国民の不満は募っている。