文=陳友駿 上海国際問題研究院研究員
日本の国会でこのほど「経済安全保障推進法」(以下「同法」)が可決され、国内外から注目を集めている。同法は来年より段階的に施行される。この岸田政権を代表する政策とされる同法に細かく目を通すと、次の3つの傾向が見えてくる。
(一)同法は日本政府が市場経済活動に干渉するため、より多くの「合法的な」解釈を提供する。そのうち顕著なのは、同法が日本の首相の権限を拡大し、十分な命令権と調査権を与え、かつ首相が「国家経済安全の確保」のために出した指示に積極的に協力し、これにしっかり従うよう各級の部門に求めている点だ。さらに国会の審議に提出された主な理由の一つである、同法の2つの「確保」が特に注目されている。まずは特定重要物資の安定的な供給の確保で、次に特定社会基盤役務の安定的な提供の確保だ。
同法の文書には「特定重要物資」が具体的に示されていないが、これまでの日本の政界及び経済界の懸念から判断すると、半導体やレアアースなどの希少性の高い資源が含まれるとみられる。将来的に関連商品の輸出入及び国内外の生産などが厳しい管理と規制を受けることになる。また、同法は「特定社会基盤役務」について、電力、石油備蓄、通信、金融など14の細分化された業界を詳細に列挙し、マクロ経済運営のほぼすべての基礎的業界を網羅している。そのため日本政府のマクロ経済運行への介入が、これから全面的になる可能性がある。
(二)日本の海外における産業チェーン・サプライチェーンの再編と調整のペースが上がる。日本政府が国内の産業発展への干渉をいっそう強め、「バタフライ効果」を引き起こし、日本企業の海外工場や生産拠点などの再編を促すことになる。この変化は次の2つの顕著な趨勢を示す。まず、半導体の設計や研究開発を含むハイテク産業の日本回帰が加速し、かつ積極的な外資導入などの促進策を通じ、日本の同分野におけるハイテク競争及び生産の優位性を形成・強化する可能性がある。次に、生産コストが相対的に低い地域への海外生産拠点の移転が加速し、かつ生産コストを削減し製品の全体的な競争力を強化すると同時に新たな市場を開発し、新たな経済収益を生み出す。
ここで特に指摘しておくべきことは、世界の産業チェーンの調整が現在、市場と価値観という2つの力から影響を受けていることだ。市場の原則に基づき産業チェーンとサプライチェーンの構造及び分布を調整することにおかしな点はなく、世界経済の一体化発展の方向と大きな流れに合致しており、また国際社会により多くの福祉をもたらす一助となる。しかし価値観の対抗を目的としたサプライチェーンの移転、さらには「デカップリング」の喧伝は正反対の効果を生む。特定産業の中長期の合理的な計画と発展に資さず、新型コロナウイルスに苦しむ世界経済の回復にも資さず、ましてや人類社会全体の技術進歩と文明共有に資さない。
(三)同法の可決と施行により、日本社会の保守化がさらにエスカレートする。その他の法案と比べると、同法の構想の発表、法案の作成、国会での審議・可決までにかかった時間は短い。衆参両院及び社会面で強い反対と妨害を受けなかった。つまり日本の政界及び社会は同問題をめぐり意見を一致させているということだ。
これは主に、安全問題が社会の共通の認識と支持を形成しやすいためだ。同法は経済・社会発展と「国家安全」を直接結びつける。しかしその裏側には、日本社会全体の対外交流・協力の意欲と積極性が持続的に減退しており、社会の内向き志向がより顕著になっているという実質がある。しかもいわゆる絶対の「経済安全」を確保するため、日本は対外交流・協力の重要なチャンスを自ら放棄している。さらには小さなグループという融通のきかない発想により、その大きな発展と進歩のスペースを狭め、制限している。これは日本政府が十数年に渡り叫んできた「平成の開国」もしくは「国の扉を再び開く」といったスローガンに大きく背いている。
上述したように、同法の可決と施行は日本の未来の産業チェーン及びサプライチェーンの構造に重大な影響を生む。「特定重要物資」と「特定社会基盤役務」も2つの重大な議題になる。我々は注目を維持するべきだ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2022年5月19日