ゲーツ米国防長官のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)での発言で最も注目されたのは「たとえ軍事費を削減し、かつアフガニスタンとイラクの2つの戦場での負担を背負い込まざるを得なくても、アジアの同盟国の安全保障に対する約束を弱めることはない」だった。この発言が、一部同盟国が米国の「アジア回帰」の真剣度に疑念を抱いていることを受けてのものであることは明らかだ。
第二次大戦終結以来、米国はアジア太平洋地域において最も強大な軍事力であり続けた。現在米国経済は苦境に陥っているが、将来相当長期間にわたり、アジア太平洋地域において米国の軍事的プレゼンスが主導的地位を占め続けることを疑う者はいない。一方、米国が「アジア回帰」においてそのソフトパワーとハードパワーをどのように投入するかによっては、覇権の覆轍を踏む危険性を孕むと同時に、覇権の落とし穴を回避する可能性もある。その鍵は米国が従来の戦略的方法から脱却できるか否かにある。
今日のアジアはもはや、弱々しく無力で冷戦によって分割されたアジアではない。アジアはまさに史上前例のない大発展、大協力の中にある。アジア新興市場国は金融危機対策で実力を示し、世界経済の重要なエンジンとなり、国際社会における自らの役割を変えている。
天秤はアジアへ傾き始めている。今後米国がアジアの問題にどのように関わるかは、過去のように米国自体のグローバル戦略を中心に決まるのではなく、アジアの発展の現実、つまりアジアがどのような米国を必要としているかによって決まる部分が大きくなる。かつては米国の戦略がアジアを形作ったが、今後はアジアの発展が米国の戦略を形作ると言えよう。