ポテンシャル(3)
労働力の潜在力―「農業の近代化により2億の労働力を捻出、工業化・都市化による労働力需要を補う」
記者:中国は「ルイスのターニング・ポイント」に差し掛かっているのか?中国の労働力市場はどこへ向かって発展をすればよいか。
鄭新立氏:それを語るにはまだ、20年早いと私は考える。
現在の中国農村部の人口は6億6000万人、農業従事者は2億8000万人。中国の耕作地は18億畝、1人の労働者につき6.5畝の耕作地がある計算だが、アメリカの場合は1人当たり数千畝、ヨーロッパは1人当たり数百畝の耕作地がある。中国の農業の機械化はすでに進歩しており、特に大きな耕作地ではすべての工程の機械化が実現可能である。このような現状の中、たった6畝の耕作地では到底、生活は成り立たず、農民は都市に出稼ぎに行くしかないため、農業をしているのは老人だけになってしまっているのが現状だ。
力のある若い労働力に農村に残って欲しければ、量産化できる大規模な経営体制を形成する必要がある。農業のエキスパートに土地を譲り、農業法人や協同組合や商業的な家族農場を設立して経営規模を拡大し、農村の耕作地で得られる収入が都市に出稼ぎに行く収入よりも高くなって初めて、若い労働力が農村に残り、農業の近代化も進むのだ。
もし、このような事が進展するとしたら、2億8000万の農業従事者は8千人で事足りる。余った2億の労働者は、今後20年間で展開される中国の更なる工業化と都市化で必要な労働力として重宝される。まずは収入の向上が大前提である。そこから工業化や都市化、農業の近代化が進展していくのである。
浙江省と江蘇省では、農業従事者が省全体の労働者に占める割合はそれぞれ15.9%と18.7%である、都市と農村住民の所得格差はそれぞれ1.9対1と2.0対1である。国内全体の所得格差は3.3対1だ。この2つの省は農業従事者の割合が下がっているため、都市と農村との所得格差が割と小さくなっており、農民の消費力も上がっている。しかし、全国的な平均を見ると、農業従事者の割合は36.7%で、農業増加値のGDPに占める割合は10.1%だ。つまり、農業従事者3.7人が1年間でもたらす利益は、第2次・3次産業従事者たった1人がもたらす利益に過ぎない。資金の投入だけで農民を豊かにする方法は不確実で、農業の生産効率を上げることこそが決め手となり、労働力を減らすことによって、農民に豊かさをもたらすことができるのだ。