2005年になって、ソニーは苦しみもがいた結果、やっとのことでiPodに対抗できるデジタル製品を打ち出した。しかし、そのときにはソニーは既にアップルに滅多打ちにされていた。そして、アップルが同時期に打ち出したiPodnanoは新たなブームを巻き起こし、ソニーは自社の製品がやっと発売されたにもかかわらず、その努力はもはや水の泡であることを思い知らされた。
こういった例は他にもある。ソニーは以前、一世を風靡したトニリトロンテレビを自負しており、当時既に市場で頭角を現していた液晶テレビに対し、見て見ぬ振りをしていた。状況がいよいよ芳しくなくなってきた頃には、「時既に遅し」だった。現在、サムスンのテレビ事業はソニーより何倍も好調な業績を上げている。また、サムスンは数年前に、ソニーに取って代わり、世界で最も価値のある家電製品ブランドの名を手に入れている。
これはイノベーションのマンネリ化である。ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセン教授は自身の著書「イノベーションのジレンマ」で以下のように指摘している。「企業が成功し続けることを望むなら、自己否定をし続ける必要がある。既にある成果に甘んじてはいけない。視野と資源を新たな分野へと向けるべきだ。しかし、構想を現実へと変えるのはただ単に技術の問題だけではなく、既に意識レベルに到達している芸術性の問題でもある。当事者はチャンスと現実、コストと利益、長期的な視野と目下の状況、将来の傾向と現在のモデル間の関係の丁度良いポイントを掴んで初めて、勝ち抜く事ができる」。